安倍氏の急逝後に下関で起きた「クーデター」
安倍氏が急逝した後、下関市の勢力図は大きく変化した。市長の前田晋太郎氏は安倍氏の元秘書であり、安倍派の集団といえる自民系会派「創世下関」に支えられていた。だが、安倍氏の息のかかった者たちで議長・副議長ポストを独占してきた「創世下関」への反発は強く、安倍事務所の力が低下したとみるや、同じ自民系でも林氏に近い議員からなる会派「みらい下関」が、もう一つの自民系会派を吸収合併してのしあがり、「創世下関」を最大会派から蹴落とした。
今年2月の下関市議選の結果、34の議席のうち「みらい下関」が12人の当選者を出したが、「創世下関」は7人にとどまっている。
実際のところ、新3区の公認争いをめぐる国盗りゲームは、現時点で林氏に分がありそうである。いちばん有力なのが、先述した「スライド案」、すなわち新1区高村氏、2区岸氏、3区林氏、吉田氏は比例へという、安倍派が避けたいシナリオだ。自派閥の高村氏を守らねばならない麻生氏はこちらを主張するだろう。林氏にとっても願ったりかなったりだ。
しかし、林氏には突かれて痛い点がなくはない。将来の総理をめざし河村建夫氏の選挙区を横取りするかたちで、2021年秋の衆院選で、参院から衆院山口3区にくら替えしたばかりだ。宇部市や山口市を含むという点では新1区でも同じだ。いくら生まれ育った地とはいえ、下関に移っていくというのは身勝手すぎないか。そのような批判が出てくるだろう。
林氏が新1区の場合は、2区岸氏、3区吉田氏とし、高村氏が比例にまわることになる。この場合は、山口県の小選挙区3つのうち2つを安倍派が占めることになり、安倍派の思惑通りだ。
だが仮に、新3区に吉田氏が公認されるとしても、それで安倍家の血脈が継続するわけではない。世襲が日本の政治に限界をつくっているのは間違いないが、事実として血縁が異常にモノを言う日本的な風土のなかで、吉田氏が、解散する安倍晋三後援会の人々を自身の支援者として今後長きにわたり繋ぎとめていけるかは疑問だ。
岸田首相は6月7日、安倍派の塩谷会長代理と官邸で会い、衆院山口新3区の候補者調整について「非常に難しい判断だ」と述べたという。この時点ではそう言うほかないだろう。
つまるところ、茂木幹事長の最終判断は、安倍派の意向を忖度するか、盟友である麻生副総裁との関係を重視するかの究極の選択になりそうである。
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