“安倍晋三の亡霊”に震える自民党。衆院山口新3区で勃発した「令和の仁義なき戦い」

Tokyo,,Japan,-,7,September,2021?exterior,Of,Liberal,Democratic,Party
 

次回の衆院選より区割りが変更され、いわゆる「10増10減」となる小選挙区の定数。早ければ「6月解散・7月総選挙」もあり得ると報じられていますが、定数減の地域では激しい激しいつばぜり合いが展開されているようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、安倍晋三氏の地元である山口県で繰り広げられている、党の公認を巡る激しい攻防戦の模様を詳しく紹介。さらに公認権を握る茂木幹事長が置かれている「難しい立場」を解説しています。

地元政界では「クーデター」も。安倍氏という親玉失った城の行方

亡くなった安倍元首相の後継者として、衆議院山口4区補選で当選した吉田真次氏は、立候補した時点から、補選がすんでも遠からず総選挙がやってくることを覚悟しておかねばならなかった。

かりに、この6月中に衆院が解散されて7月の総選挙となると、わずか3か月ほどで再び有権者の審判を受けることになる。しかも、「10増10減」の改正公選法により、全く同じ選挙区からは出られないのだ。

山口県の小選挙区は区割り変更で「4」から「3」に減少する。つまり、自民の4人の現職のうち1人は小選挙区からはじき出され、出馬するにしても比例中国ブロックにまわるしかない。

安倍元首相の夫人、昭恵氏は吉田氏を引き連れて5月31日、自民党本部に茂木敏充幹事長を訪ねた。新3区に吉田氏を公認するよう直談判するためである。

後継者選びに苦労した末、「熱狂的な安倍晋三ファン」だった下関市議、吉田氏に目をつけたのは昭恵氏だ。相続権のない東京の自宅を出て、安倍氏の残した下関の屋敷に移り住むという昭恵氏は、よほどの決意でやってきたに違いない。安倍派からも会長代理をつとめる塩谷立氏、下村博文氏が加勢して、茂木氏ら党幹部にプレッシャーをかけた。

吉田氏が議席を得た山口4区は、言うまでもなく安倍氏の地盤、下関市と長門市からなる。新区割りで、両市を含むのは新3区であり、当然のことながら、吉田氏は新3区からの総選挙出馬を熱望している。

だが、それが叶うかどうかは、かなり微妙な情勢だ。新3区には、現3区の林芳正外相が出馬に意欲を燃やしている。もともと祖父の代から下関を地盤とする林外相は岸田首相と同じ派閥「宏池会」に所属し、山口県の政界で「将来の宰相」と期待されてきた存在だ。

現職閣僚の強みで林氏が新3区を奪い取れば、吉田氏は比例にまわされ、安倍氏が長年守ってきた下関・長門の「城」を明け渡さねばならなくなる。

「主人のあとを、選挙区を吉田さんに継いでほしいです」と頭を下げる昭恵氏に対し、茂木幹事長は「県連の意向を尊重しながらやっていきたい」と言葉を濁した。

茂木幹事長の心中は複雑だったに違いない。山口県内の4つの小選挙区にはいま、4区の吉田氏、3区の林氏のほか、1区に高村正大氏、2区に岸信千世氏がいる。高村氏は麻生派で、高村正彦前副総裁の長男だし、岸信千世氏は前防衛大臣、岸信夫氏の長男だ。党本部の判断しだいで、このうち誰か一人に貧乏くじがまわってくるのだ。

新区割への候補者調整に関し、自民党山口県連は、4月の衆院補選後、4氏から意向を聞き、県連への「一任」を取りつけようと働きかけてきた。3人は概ね了解したが、吉田氏だけは応じなかった。比例区にまわされることを懸念したからだ。

このため、県連は「調整が難しい」として党本部に一任したが、茂木幹事長のほうでも「県連の意向を尊重する」と言うばかりで、この案件処理を主導するのを避けたがってきた。

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