【裏切り3】エルドアンは、スウェーデンのNATO加盟を支持する
そして3つ目の裏切りです。
エルドアンはこれまで、スウェーデンのNATO加盟に反対してきました。既述のように、その理由はクルド問題です。しかし、ここに来て、「スウェーデンのNATO加盟を支持する」と方向転換しています。ただし、「トルコのEU加盟交渉を再開すること」を条件に挙げています。
時事7月10日。
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領は10日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟について、長年停滞しているトルコの欧州連合(EU)加盟交渉が再開すれば支持すると述べた。
これも、プーチンにとっては本当に深刻な裏切りです。なぜでしょうか?ウクライナ侵略、トップの理由は、「ウクライナのNATO加盟阻止」でした。ところが侵略の副作用がでてきた。具体的には、これまで中立を維持してきたフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を目指すようになったのです。そして、今年4月、フィンランドは31番目のNATO加盟国になりました。
しかし、トルコの反対で、スウェーデンは加盟できていない。プーチンにとってエルドアンは、「NATO拡大を阻止してくれる」ありがたい存在だったのです。ところが、今回裏切った。
というわけでエルドアンは、
- ウクライナのNATO加盟を支持
- ロシアとの合意を破り、アゾフ大隊の指揮官をウクライナに返した
- スウェーデンのNATO加盟を(条件付きながら)支持
以上、3つの深刻な裏切りをしています。
なぜ、エルドアンは、サクッとプーチンを裏切るのでしょうか?
一般的に言われているのは、「プーチンが穀物合意延長に反対しているから」です。穀物合意の期限は、7月18日で切れます。エルドアンは、自分が主導している穀物合意を、プーチンがぶち壊そうとしていることに憤慨している。つまり、エルドアンに言わせれば、「最初に裏切ったのはプーチンだ」ということでしょう。
もう一つ、エルドアンは、「プリゴジンの乱」などを見て、「プーチンの権力基盤が弱体化しているから、好きにしても何もできないだろう」と考えているのでしょう。日本では、「プリゴジンの乱」について、かなりトンチンカンな説が流布されていますが。1日で終わったこの反乱は、ロシア国内の「プーチン最強神話」を粉々にしました。「川に落ちた犬は叩け」というのは、韓国のことわざだそうです。しかし、国際関係のことわざとしても使えそうですね。
プーチンが弱くなったのを見て、中央アジア諸国は、中国に走りました(中国中央アジア運命共同体創設へ)。ロシアが欧州に天然ガス、原油を輸出できなくなったのを見た中国は、ロシア産ガス、原油を【激安】で【人民元】で大量に輸入するようになりました(ロシアではなく、中国自身を助ける)。プーチンが弱くなったのを見て、アルメニアはロシア中心の軍事同盟CSTOからの離脱を検討しはじめました。プーチンが弱くなったのを見て、ウクライナ、ジョージア、モルドバは、EUに加盟申請しました。
これらの事実はすべて、「プーチンの権力基盤が弱体化していること」を示しています。
繰り返しますが、これらはすべて「事実」です。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年7月11日号より一部抜粋)
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