「トイレで女性が襲われる」性的少数者への差別デマを吹聴する“保守論客”の名

 

長年、日常的に差別的扱いを受けていれば、鬱積した感情を漏らしたくもなるだろうと許容できるし、そういった個々の匿名発信が、最高裁の判断に影響を与えるとも思わない。

訴え出るなら清廉潔白で、聖人のような人格者であれ、という感覚なのか?それは、伊藤詩織さんに対して「男と酒を飲んだら、レイプされても被害者とは言えない」と言い出した人間たちと似た感覚だ。

第一、「人には深層心理がある」とのたまうなら、アンタの文章は、差別心どろどろの深層心理が全然隠せてねーよと言いたい。トランスジェンダーであるAさんを受け入れることができず、とことん貶めて差別したいだけなのだ。

また、八木は、Aさんが健康上の理由で性別適合手術を受けることができず、男性器があるという事情についても取り上げ、

「男性器があるまま法的には女性に、女性器のあるまま法的には男性に性別移行することが可能になる。そして男性器のある女性が生まれつきの男性と、女性器のある男性が生まれつきの女性と法律上の結婚ができることにもなる」

「男性から女性へ性別移行した人が、男性と結婚するが、不貞行為で第三者の女性を妊娠させ、出産する場合、子どもの父は戸籍上は女性となる。」

など、頭がこんがらがるような特殊すぎる事例だけを次々と並べて、読者を混乱に陥れようとする。

さらに、「性自認は変化し、生物学的性別の性自認に戻ることが知られている」とまったくデタラメな自論を展開。また統一協会の説か?

【関連】統一教会をとことん擁護。自民が重用するエセ保守論客・八木秀次氏のトンデモ論考

そして最後は、「本人の性自認を絶対視すれば、男性の外見をした戸籍上の女性は、トイレを含む女性専用スペースに立ち入れるのか」と曲解。LGBT理解増進法の時と同じく「これでトイレや風呂にチンチンのついたオッサンが堂々と入ってくるぞ~!」という類のデマの吹聴に加担しているのであった。

判決は、本人の性自認を「いかなる場合も絶対視」しているものではなく、Aさんのケースでは、Aさん本人の訴えと、医師の診断、治療の経緯、日々の振る舞いや社会的認知、職場の様子や環境などを精査して、「省内での話し合いが不十分で、Aさんへの理解を深めようともしておらず、差別的処遇は違法」と判断されているのだ。

そもそも、最高裁の判決の意図も、Aさんの抱えている問題も、トイレの利用問題だけではない。今回はたまたま「トイレ問題」が議題になったが、社会全体でトランスジェンダーの存在について理解を深めて、それぞれの現場で話し合っていくようにしてほしい、そのような土壌がなければ、根本的な解決にはなりませんよという話なのだ。

「トイレ、風呂、キケン、女性が襲われる!」

というのは、わざわざ下ネタとして問題を矮小化している、あるいは、その程度の幼稚なところまでしか理解できない脳みそから発信されるデマ・戯言で、マイノリティーに対する理解を妨げようとする差別心にすぎない。

『月刊正論』は危険な差別雑誌である。

(『小林よしのりライジング』2023年8月15日号より一部抜粋・文中敬称略)

gs2022

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