「トイレで女性が襲われる」性的少数者への差別デマを吹聴する“保守論客”の名

 

ところが、この判決に対して、猛然と異を唱える雑誌がある。

今号の『月刊正論』特集「性は多様にあらず」。

その筆頭論文は、八木秀次の「最高裁トイレ判決は社会分断の序曲」である。

八木は、今崎裁判長のコメントなどを紹介した上で、判決を「いかなる場面でも本人の性自認を優先させるべきだとするトランスジェンダリズム(性自認至上主義)の主張の根拠として使われる」「今回の判決は社会の混乱や分断への序曲となったもの」と、猛批判。

女性宮家・女性天皇は「社会の分断」、トランスジェンダーへの理解は「社会の分断」と、起きてもいない「分断」をすぐに妄想し、自分の身内に向かって、ありもしない危険を知らせながら、自身の心のなかにある「女は男より下に置いておきたい」「トランスジェンダーなんて認めたくない」という差別心をげろげろ吐き出すのがこの人の特徴だ。

まず、「トランスジェンダリズム(性自認至上主義)」という言葉を、はじめて知った。調べてみると、トランスジェンダーをとりまく歴史や問題を解説した本、性別適合手術を受けた人のルポのタイトルに、この単語が使われているケースがあったが、基本的には、当事者が使うことはまれのようだ。

さらに調べると、アメリカのLGBTQ団体「GLAAD(中傷と闘うゲイ&レズビアン同盟)」が、この単語について警告を出していた。

トランスジェンダーの人々が使う用語ではなく、反トランスジェンダー活動家がトランスジェンダーを非人間化し、トランスジェンダーを、言論の自由を脅かす危険なイデオロギーであると貶めるために使用するものです。

Glossary of Terms: Transgender

なるほど。

グーグルで「トランスジェンダリズム」と検索すると、「女性の人権と安全を求める会」なるホームページがヒットした。

そこには「トランスジェンダリズム」が危険な思想であるかのように解説されたページがあり、今回の判決についても、最高裁に対する猛烈な抗議文が掲載されていた。

  • 女性の人権と安全が過小評価されている
  • 先人の女性たちが苦労して女性トイレを確保してきた
  • 女性の生きづらさ、女性の不利益、女性の恐怖と絶望はいっそう増進する
  • もし一人でも被害者が出たら、あなた方の責任である

最高裁判決は、「一律にこうせよ」というものではないのに、その意図も裁判長のコメントもまったく理解せず、強固すぎる「ジョセイノジンケン!」のみに特化・先鋭化して、完全に真逆の方向へと飛んで行ってしまった人たちのようだ。

八木は、こういった先鋭化した主張に乗っかって利用し、トランスジェンダーをまるで政治的イデオロギーであるかのようにレッテル貼りし、差別しているのである。

さらに八木は、Aさんと思われるツイッターアカウント(本人かどうかは不明)に着目。

そこに書き込まれていた下ネタや、トランスジェンダーを認めない人々に対する「心無いド畜生」という本音の書き込みを取り上げ、「人には深層心理がある」「攻撃性・暴力性を感じさせる侮辱語だ」「深層心理において男性性を払拭できていないように思える」などと解釈し、「これらの投稿の存在は最高裁の判決後に発見されたもので、裁判官の判断に影響を与えるものではなかった」などとまとめた。

Aさん本人のアカウントだったとして、下ネタや本音の怒りのなにが悪いのか。

芸能界で活躍する日本のトランスジェンダーのタレントたちを見ていれば、固定観念に縛られない世の中の見方や、独特な感性を持っている人が多いと感じるし、たまに男性性を感じさせる発言や発想を見せるところが面白いと思うことがある。

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