プリゴジン氏の死によりクレムリン内で外れたストッパー
世界で進む欧米の勢力の凋落を再度反転させるきっかけとなりうるのは、中ロの勢力拡大にストップがかかるような事態が起きることです。
中国の経済成長のスランプや、誤った対台湾武力侵攻によるAUKUSやクワッドからの反撃で軍事力を著しく削がれるシナリオが起きたり、急にロシア軍が今回の戦争で敗北する状況になったりする場合がその事態に当たりますが、現時点で分かっている様々な情報や分析結果に鑑みると、これらが起こる可能性は低いと思われます。しかし、仮に起きた場合、中ロが取り得る策は、自滅的なものとなる可能性が高く、それは恐らく破滅的な結果を北東アジア地域、そして世界全体に起こしてしまうことを意味します。
先週起きたプリコジン氏の“死亡”により、あるストッパーがロシア軍内、そしてクレムリン内で外れた可能性が指摘されています。
私自身、聞いていたものの信じていなかった情報として、プリコジン氏はロシアによる核兵器使用に賛同しておらず、それが破滅的な結末を人類に及ぼすことをプーチン大統領に再三警告していたそうですが、その重しが取れたことで今、ロシア政府内および軍内では過激派の影響力が高まり、ロシアが窮地に陥るような状況を許容することは許されないため、それを未然に防ぐために、核兵器の使用を厭うべきではないという声が大きくなる可能性が高まってきているという情報が入りだしました。
よく似た状況は、実は中国政府内でも起きていると思われ、「準備はするものの、現実的に台湾への軍事侵攻は中国にとっての自殺行為に等しい」という落ち着いた見解が覆され、「いつまでもアメリカの都合による警告と脅しに屈するのではなく、アジアからアメリカを追い出すことが中国の使命と考えて行動すべき」というタカ派の見解がじわりじわりと政府・人民解放軍内で拡大してきているようです。
今年3月に長崎大学のRECNA(核兵器廃絶研究センター)が主導する国際プロジェクトの報告書が出され、北東アジア地域で核兵器が使用された場合の影響のsimulationが示されましたが、そこで紹介された恐るべき影響と結果が、simulationの域を超えて、実際に起こり得る可能性が高まっていると考えることが出来ます。
ロシア・ウクライナ戦争に対する国際社会の“熱狂”は、北朝鮮の核技術と弾道ミサイル技術の開発と実用化を加速させる後押しをし、中国における急速な核戦力の拡大を助ける結果を導いています。そしてまた、これまで勢力争いの場であった中東・北アフリカを反欧米勢力として一つにまとめ始め、各地における国内外の紛争を拡大させる方向に進んでしまっています。
私が調停を手掛けたナゴルノカラバフ紛争も、アゼルバイジャンとアルメニア間で一触即発の事態に緊張が再度高まってきており、いつ戦争が始まってもいい状況と思われますが、この欧州各国のエネルギー危機をさらに深化させ、中央アジア・東欧地域の情勢不安を一気に進めかねない状況に対しても、ロシアもトルコも、そしてUNも十分な関心と力を割くことが出来なくなってきています。
エチオピア情勢は、一見、落ち着きを取り戻したと言われていますが、ティグレイ紛争の傷跡は、物理的にも心理的にも深く、こちらも日々、テロ行為による被害と政情不安の深化が進んでいるため、いつ残虐な戦いの炎が再燃するか分からない状況です。
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