心配が尽きぬヤッカリーノの行く末
インタビューの終盤は、ADL(Anti-Defamation League)の話に移ります。ADLというのは、米国最大のユダヤ人団体です。米国にユダヤ人団体はたくさんありますが、ADLは左派系で民主党がバックになっている団体です。このADLは、自分たちの利害に反する相手に誰彼構わず「反ユダヤ主義者」のレッテルを貼って排除しようとすることで悪名高いのですが、イーロン・マスクのことを反ユダヤ主義者と断じています。反ユダヤ主義者とは、ナチやヒトラーと同類という意味になります。そしてXのボイコットキャンペーンを続けているのですが、これに怒ったマスクが反撃に出ています。「自分は反ユダヤ主義者ではないのに、ADLのせいでXの米国での広告収入が60%減となっている」として提訴をちらつかせています。それをきっかけに、Xのインフルエンサーなども巻き込んだバトルが勃発していますが、X上の、 #BanTheADL というハッシュタグは、そのバトルによるものです。
Our US advertising revenue is still down 60%, primarily due to pressure on advertisers by @ADL (that’s what advertisers tell us), so they almost succeeded in killing X/Twitter!
— Elon Musk (@elonmusk) September 4, 2023
動画の中でジョナサンという名前が出て来ますが、現在のADLのトップであるジョナサン・グリーンブラッドのことです。オバマ政権時代にオバマの特別補佐官を務めた人物で、彼の下でADLは左翼化したと言われています。ヤッカリーノの役割は、広告ビジネスの専門家として、広告主との関係を再構築することにありますから、このADLによる広告ボイコットの件は避けて通れない話題なのです。
ヤッカリーノは、「訴訟は避けたい」と融和的なスタンスで話し合いを継続していると述べますが、一方で、マスクが法的手段に出ると発言していることとの矛盾をインタビュアーに突かれます。少しマスクに黙っていて欲しいと思わないか、などと聞かれますが、言論の自由を持ち出して、マスクに対して擁護的な回答をしています。
XとADLの対立の本質は、自由な言論空間にこだわるXと、ユダヤ人をヘイトから守るという名目のもと、自分たちに都合の悪い言論を抑圧したいADLの対立という構図になりますが、Xも自由な言論空間を標榜していながら、マスクがやはり自分に都合の悪い言論を押さえようとする傾向があるので、どっちもどっちのエゴのぶつかり合いといったところです。
インタビュー全体を通じて、ヤッカリーノは、自身がX社で働き始めてからわずか12週間しか経っていないとか、100daysという言葉を何度も繰り返していました。ブースティンの質問に正面から答えられないことも多かったので、現段階では自分にできることにまだ限界がある、と言い訳をしたかったのでしょう。彼女が、プラットフォームの運用からマスクが引き起こす混乱まで、一貫してXに対するさまざまな懸念を退けながら広告主との関係改善に尽力しているのは間違いないのでしょうが、マスクの下で働く限り、彼に振り回され続け、そのたびにさまざまな尻拭いをさせられることになるのは目に見えています。
今回の動画を観た個人的な印象としては、既にマスクとのコミュニケーションも上手くいっていない様子ですし、遠からず疲弊して辞めてしまうか、あるいは、マスクから引導を渡されるのではないかと感じました。あくまでも現段階での個人的な印象なので外れるかもしれませんが、引き続き注目していきたいと思います。
※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年10月6日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。
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