ジャーナリズム人生において、この種の圧力は頻繁でした。官房機密費の問題、記者クラブの問題と同じ ぐらいの「ご忠告」を受けましたから。とても残念ながら、私は性格がひねくれてるんで、「話すな」「書くな」と言われるとなにか隠しているんだと思って、言いたくなるんですね。ジャニーズ問題については「話すな」「書くな」と言われればいわれるほど「おや、これは相当にひどいことになっているな。被害者も少なくないな」と思って、さらに取材を続け、発信をしていたのです。
ただ、取材し続けても発信する媒体がなくなってくるんですね。今みたいに オウンドメディア的なネット媒体もなかったんで、当時のメルマガに書いたり、かろうじてニコニコ放送の番組で話したりしていました。連載をしていた『ダイヤモンドオンライン』は少し書いただけなんですけど、即ボツになりました。もちろん朝日新聞の連載も即ボツでした。東スポはOKでした。月刊誌でOKのところもあったんだけど、MXも1回これ言ってからは結構なんか社内で上杉の発言はどうにかならないのかと揉めたらしいですね。まだ当時、MXでは電通出稿も限られていたし、ジャニーズタレントは出ていなかったと思います。そういう意味では非常に自由なテレビ局だったわけです。今は全然ダメですけどね。
そういう意味では、この問題はひとりジャニーズ事務所の問題に矮小化するのではなく、メディアや日本社会全体の問題として捉えられるべきだったんです。大げさではありません。なにしろ、週刊文春、東スポ、ニューヨークタイムズの報道があったにも関わらず「犯罪」は続いたわけですから。おそらく何百人っていう少年が犠牲にならずに済んだわけです。
繰り返すように、ジャニー喜多川さん一人の問題じゃないですよ。きっかけとなったBBCだって、喜多川さんが亡くなってからです。 どうせ、報じるならば、なぜ生きてる時にやらなかったんだと思いますよ。BBCの記者は決して悪くはないけれど、それって死んだ後だからBBCの彼は、ジャニーさんに取材してるわけじゃないですしね。やっぱり喜多川さんに、あの時会ってね 、直接話を聞いて、報じるべきだったんですよ。確かに、ジャニーさんは会えば、良い人でしたよ。非常に柔らかで、感じの良い人でしたし、悪人だとは思わなかったけど、でも、その印象とジャーナリズムの仕事とは別なんですよ。
デビューできた人の多くは「ジャニーさんは悪い人じゃないって口をそろえますよね。そりゃそうですよ、彼らはデビュできたわけだから。でもね、デビューできなかったその10倍以上の少年たちが、犠牲になって、中には人生を終えている人もいるんです。だから、やっぱりそこは、テレビ局は犯罪行為としてきちんと報じるべきだったと思います。そして、少なくとも、ニューヨークタイムズはきちんとそうしたことをやりました。それは、これが単なる個人的なセクシャルハラスメントではなく、日本社会が一体となった組織的な児童虐待という卑劣な犯罪だと認識したからです。
最後に、テレビ局は梨元勝さんの名誉回復をするべきだと思います。何と言ってもね、この問題で業界を干された唯一の芸能リポーターでした。須藤さんは目黒区議として復活した。私上杉隆は、この問題では干されたけど、もとより芸能がメインテーマじゃなく、権力報道や政治・国際問題の専門のジャーナリストでしたから、共演NGで済んだのだと思います。しかし、梨元さんは違う。この問題で全局降板となるのです。
梨元さんの六本木の自宅兼事務所に通ったときのことを思い出します。狭いワンルーム・マンションみたいなところで、そこでずーっとね、取材と発信を続けていました。「惨めなもんですよ。でも、私は芸能リポーターです。あなたもジャーナリストならばわかってもらえますよね。誰かがやらなくてはならない。少年たちを救うべきですよ」と笑いながら、だが、涙ながらに語っていたのが印象的でした。少年救済に人生を捧げた唯一のジャーナリスト、孤高の梨元さんに敬意を表しながら、改めて「安らかに」と言わせてください。
ここまでのソース:【AI記者アーカイブ】ジャニー喜多川氏だけが悪いのか?23年前の直接取材とメディアの対応 – YouTube
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