自衛という名目の“見境なき殺戮”。イスラエルが攻撃の手を緩めない理由

 

明らかな国際人道法違反であるガザ北部の病院への侵攻

そのような中、初めて国連安全保障理事会はマルタが提出した“即時停戦とすべての人質の迅速な解放を求める決議”を採択することができました(しかし、アメリカ、ロシア、イギリスが棄権しているのが、まだここでも政治的なゲームが続いていることを示しています)。安保理決議には法的拘束力が伴うため、当事国イスラエルもその決定には従わなくてはなりませんが、現状をみてみるとその実効性に確信が持てません。

ハマスによる奇襲攻撃以降、UNとイスラエルの関係はこれまでにないほど悪化し、そこに100名を超えるUN職員がイスラエルによる攻撃で亡くなり、おまけにイスラエル政府には“ハマスの構成員”扱いされて、その殺戮を正当化されるなど異常な状況にあり、かつイスラエル政府が国連はおろか、唯一の味方であるはずのアメリカ政府の勧告さえも聞き入れない頑なな姿勢を崩さず、“ハマス壊滅の日まで攻撃を止めない”と公言しているため、その安保理決議の効力はあまり期待できないかと思います(それに肝心のアメリカも棄権していますから)。

ガザにおける戦闘はまさにエスカレーション傾向にあり、それにつれて民間人の犠牲者が増えています。何よりも今週行われたイスラエル軍によるガザ北部の病院への侵攻は、明らかな国際人道法違反です。

「ハマスがあえて病院の地下にその司令部を置き、戦闘員が潜んでいたから」とイスラエル軍の報道官は、もろもろの火器を見せながら攻撃を正当化していますが、仮にそうであったとしても、やはり学校や病院が軍事的なターゲットになってはいけないという国際人道法のルールに明白に違反し、戦時における民間人の権利を著しく侵害していることは否めません。

同時に地下トンネルに人質を押し込み、イスラエルからの攻撃に対する人間の盾に使っているハマスのやり方も卑怯ですし、何よりも“人民からの支持”を盾に、幼い子供を含むガザの住民を人間の盾として用いているハマスの戦略は卑劣としか言いようがありません。

ハマスがイスラエル人と外国人を人質に取り、自らを支持するガザのパレスチナ人もある意味、人質に取って世界に何らかのメッセージを発信しているのでしょうが、それは私たちに伝わっているでしょうか?

またマルタが提出し、安全保障理事会で採択された決議の中で謳われているように(明示はしていませんが)、イスラエル政府もまた人質を取り、対ハマスの交渉材料に使っています。つまり人質案件についても、イスラエル・ハマス双方に責任があり、責められるべきであると考えます。

人質解放については、今、エジプトとカタールが仲介役を担い、イスラエル・ハマス双方に対して働きかけ、一人でも多く、一刻も早い解放を目指していますが、最低条件となっている“一時停戦”が成立していないため、非常に話し合いは難航しています。

一応、カタール当局と協力して進めている仲介では「3日間の停戦を条件にハマスが人質を50人程度開放する」方向で話し合いを進めていますが、それが実現するかは正直未知数です。

そして事態をややこしくしているのが、ハマス内部の力関係です。現在、ハマスを代表して人質解放についての協議を行っているのは、カタール・ドーハにいるハマスの政治部門の幹部ですが、実際に人質を取っているのはガザにいるハマスの軍事部門であり、ハマス内での意思疎通がうまく行っていない模様です。

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