自衛という名目の“見境なき殺戮”。イスラエルが攻撃の手を緩めない理由

 

静観続けるレバノンのヒズボラとイラン革命防衛隊

その原因の一つが、イスラエルによるガザ地区の通信の遮断措置ですが、テクニカルな問題以外に、政治部門と軍事部門の間のパワーバランスがうまく行っておらず、ガザで実際にイスラエル軍を迎え撃っている軍事部門は、ぬくぬくとドーハでVIP生活を送る政治部門を決してよく思っておらず、政治部門が決めることに対して反旗を翻しているという情報が、カタールで仲介に当たっているメンバーから寄せられています。

これが本当だとすると、人質解放に向けた協議は著しく困難を極めるでしょうし、現在の戦闘に何らかの終止符を打つにしても(停戦を行うにしても)、イスラエルサイドと軍事部門との直接的なやり取りがない限り、ドーハにいるハマスの政治部門が決めたとしても効力を持たない可能性が高まります。

さらに今回のケースで非常に不可解なのが、国連安全保障理事会での討論の場以外でパレスチナ自治政府の存在感が非常に薄いことです。

一応、パレスチナの政府機関とされるのが自治政府ですが、実質的にはほとんど影響力を持たず、イスラエルの影響下にあると言われています。今回のケースではもちろんガザの側に立ち、ハマスによる行いを称賛はせずとも、十分に理解し、サポートする立場に立っています。

ハマス掃討後のガザの統治機構として、イスラエルのネタニエフ首相はパレスチナ自治政府が適当と当初は発言していたようですが、その後、ラマラからの対イスラエル非難が強まるのを受けて、今週になって「パレスチナ自治政府もガザを統治する資格がない」と発言しだしました(「じゃあイスラエルはその資格があるのか?」と問いたくなりますが)。

あまり存在感がないアッバス議長ですが、現在、ヨルダンやカタール、エジプトなどの首脳と密接に連絡を取り合い、ガザへの支援と同時に、一刻も早い停戦に向けてイスラエルに圧力をかけることを働きかけています。一応、アラブ諸国の連帯の軸になっているようですし、本来はイスラエルに対するカウンターパートにならなくてはなりませんが、実際には今、ネタニエフ首相から相手にされていないようです。

その微妙な状況を嗅ぎ取って欧米諸国もアラブ諸国も「イスラエルがガザを統治するようなことを考えてはならない」とイスラエルに釘を刺していますが、その背後には、ガザへの連帯が全パレスチナの反イスラエル勢力を一気に勢いづけ、イスラエル対ハマスの構図が、イスラエル対パレスチナになることを恐れるだけでなく、そのまま周辺諸国に戦火が飛び火することをとても恐れています。

その飛び火のケースで、紛争の拡大の火に油を注ぎそうなのがレバノンのヒズボラとその背後に控えるイラン革命防衛隊ですが、両方ともこれまでのところ静観しているように見えます。

ヒズボラについては、散発的な交戦をイスラエルと行っているものの、まだ国境を越えて一気にイスラエルに攻め入るという動きには出ていませんし、イラン革命防衛隊についても、米国とアラブ諸国からのプレッシャーを受けて(アメリカについては、散発的な基地攻撃を受けて)特に動きを見せていません。

ヒズボラについては、ハマスと反イスラエルで意向が一致しているものの、現時点で紛争に巻き込まれ、イスラエルだけでなくアメリカから攻撃を受けて勢力を削がれることをとても恐れて、本格的なハマスへの援護射撃を行えていません。

しかし、このままイスラエルによるハマス掃討作戦が激化し、ガザの被害がさらに拡大し、それを受けてイスラエルの孤立が深まったと判断したら、新たな戦端を開く可能性は否定できません。

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