自衛という名目の“見境なき殺戮”。イスラエルが攻撃の手を緩めない理由

 

アラブ諸国と活発な外交を行うイランの狙い

そしてヒズボラが本格参戦する場合には、何らかの形でイラン革命防衛隊が支援することになりますが、そのためには、イランがサウジアラビア王国をはじめとするアラブ諸国とのすり合わせを行っておく必要があります。

その準備として、このところイランが対アラブ諸国に活発な外交を行っており、何とかアラブ諸国と反イスラエル戦線を築くことを狙っているようです。

それには、ハマスによるイスラエル奇襲攻撃前に進んでいたイスラエルとアラブ諸国との和解(アブラハム合意)の動きへの焦りがあり、イラン政府としては何とかイスラエルとアラブによる反イラン戦線が出来上がることを阻止したいという思惑も働いています。

そのためにイランがアラブ諸国に“約束”しているのが、「イランのようなイスラム革命の波をアラビア半島には拡げない」ことと言われています。

王政による統治を基盤とするアラブ諸国にとって、イランはシーア派国というよりも、イスラム革命による共和制を拡げる元凶と見ており、その可能性をイラン自らが打ち消すことで共同戦線を敷こうとしていると分析できます。

そのイランの狙いがはまった場合、ハマスの状況いかんに関わらず、まずヒズボラによるイスラエル攻撃を本格化させ、その後は、積極的か消極的かはその時の情勢にもよりますが、アラブ諸国には静観か攻撃への参加を促しつつ、イラン革命防衛隊がイスラエルへの長距離攻撃を加えるという算段だと思われます。

もし停戦がなかなか成り立たず、ガザでの悲劇がさらに深まり、パレスチナのデリケートなバランスがイスラエルによって崩されると各国が感じた場合、一気にこのイスラエルとハマスとの戦争は、アラビア半島と地中海に広がり、一気にアラブ諸国と欧州各国を直接的に巻き込む大戦争に発展する可能性が高まります。

その芽(ヒズボラによるイスラエル攻撃)を摘むためにアメリカは東地中海に空母攻撃群を2セット派遣しているわけですが、アメリカ政府がイスラエルの軍事行動を自粛させ、かつヒズボラによる攻撃を阻止できない場合は、アメリカ政府はとても大きな選択を迫られることになります。

それは「“同盟国”とアメリカが呼ぶアラブ諸国を守り、欧州各国を守るために、アメリカはフルに軍事的コミットメントを行うのか」。それとも「コミットメントはイスラエルに止め、欧州には自主的またはNATOの枠組みを通じたコミットメントを求めるのか」という選択です。

欧州各国はすでにその危険性を感じ取り、ブリュッセルに集って対応を協議していますが、欧州は同時に地続きのウクライナ対応も迫られており、非常に苦慮している様子が伝わってきます。

EUには共通経済・通商政策は存在しますが、欧州軍をはじめとする共通の外交・安全保障政策はなく、まだその決定権は加盟国の防衛当局に委ねられています。つまりEUのCentral commandは実質的には存在しないため、効率的に2正面の戦争には対応できないのが現状です。

ランダムなアイデアで“ウクライナはドイツやフランス、そしてポーランドなど中東欧が対応”し、“イスラエル・ハマス(東地中海)は英国とイタリアを中心として、南欧で対応する”という内容が提起されていると聞きましたが、シリア難民や北アフリカからの難民対応でいっぱいな南欧諸国(ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガル)には荷が重く、かといってトルコに基地を有するNATOもウクライナにかかりきりという現状から、あまり頼ることが出来ないというジレンマを感じています(そもそもイスラエルは北大西洋国ではないですし)。

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