何をやっているのか、何をやりたいのかが分からない岸田政権
4つ目は、経済政策です。円安がジリジリと進行することで、原油、そして輸送費が上昇し、更に穀物など食料品が上がっています。そして建設資材なども高くなり、全国的に影響が出ています。安倍政権時代には意図的に実施していた円安ですが、現在は全く違う様相になっています。エネルギー高と円安がダブルで効いていること、ドル円水準が120円前後ではなく、150円という弱さを見せていることを考えると、安倍=黒田時代とは構造的な違いが出てきています。
では、岸田氏は現状をどう認識して、どんな政策を打って行くのか、これがサッパリ見えません。デジタルの関連も総理のメッセージ発信は弱く、担当大臣に丸投げですし、ライドシェアの問題も総理としては「知らぬ存ぜぬ」に見えます。
4点ほど「現象面」からの指摘をしましたが、全体的に言えるのは、政策の方向性が全体的に見えないことで、内閣の存在感が希薄になっているということです。過去の政権と比較すると、例えば小泉政権は(徹底的に骨抜きになっていたにしても)構造改革を前向きに売り込むという「姿勢」がありました。安倍政権(第二次)は保守派の支持を取り付けることで、政治も経済も外交も中道政策で課題を解決するという手品を続けた政権でした。例えば前世紀になりますが、小渕政権などは、結果的に捨て金になったにせよ、バブル崩壊で傷んだ経済に対して公共投資のバラマキを必死に続けた政権と言えます。
そうした過去の政権と比較すると、岸田政権というのは何をやっているのか、何をやりたいのかが分からないわけです。安倍政権より中道寄りかと思うと、いきなり防衛費を倍増するとか、ウクライナに100%のコミットをしてしまうとか、その一方で、広島サミットでは核廃絶に情熱を込めるなどという発言が出るわけです。では、核禁条約と核不拡散の二重体制というウルトラCをやるかというと、この点ではアメリカ追随の現状維持にとどまるわけです。
その結果が最初に述べたような「子育て政策の財源は増税で、それを批判されたら定額減税」という世論の「尾を踏む」ような迷走になっているわけです。つまり、一貫性、左右のマトリックスにおける立ち位置というものがハッキリしないと言いますか、伝わって来ないのです。
国会答弁について言えば、小泉、安倍のように「俺様の本音はもっと右だけど、官僚の建前と憲法の建前があるので、ここは官僚の作文をイヤイヤ読んでおこう」というような態度は、勿論ですが、決してお行儀が良いとは言えません。気持ちが入っていないので棒読みを批判されたり、見苦しい局面が多かったのは事実です。
一方で、岸田氏の国会答弁を聞いていると、塾世代のガリ勉タイプですからさすがに読み間違えとかは少ないのです。ですが、とにかく彼の本音はどこで、そこからどのぐらいズレた建前を喋っているのか、あるいは理想論はあそこだが今喋っているのは現実だとかという「政治の位置感覚」があるのかないのか、分からなくなるのです。もっと言えば思想的、政策的な「ホンネ」そのものが欠落しているか、もしくは極端に現実離れした社会観を持っているのかもしれません。
多分、本当に中長期ビジョンはないし、左右のプロッティングと言いますか、あるいは改革か守旧か、短期か長期かといった判断の感覚というのが、もしかしたら決定的に欠けているのかもしれないのです。それでいて、どうやら舞台裏での暗闘に関しては敵味方を峻別してネチッこくやっているフシもありますが、世論にはそれも良くも悪くも伝わっていないようです。
そうしたことの全体が、どうも「この総理では不安だ」ということになっているのではないかと思うのです。
この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ









