欲しいのは日本のカネと技術。プーチンは「北方領土」を返す気など1ミリも無い

 

プーチンが欲しかったのは、本当に「技術と金だけ」なのか?

ところで、プーチンが欲しかったのは、本当に日本の「技術と金だけ」だったのでしょうか?

これ、時系列で追うことで理解することができます。

まず、安倍さんが総理に返り咲いたのは2012年12月です。安倍さんは、中国に対抗するために、「ロシアと和解する」ことを決意していました。だから2013年、日ロ関係は、とてもよかったのです。

しかし、2014年3月、大事件が起こります。そう、ロシアがウクライナからクリミアを奪った。日本は、欧米の対ロシア制裁に加わりました。日本政府は、ロシアと「金儲け」の話がしにくくなった。そして、話すことと言えば、「北方領土返せ!」だけ。これで日ロ関係は、大いに悪化しました。

「このままではよくない」と思った安倍総理は2016年5月、プーチンにいわゆる「8項目の提案」を行いました。「8項目の提案」とは、

  1. 健康長寿の伸長
  2. 快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り
  3. 中小企業交流・協力の抜本的拡大
  4. エネルギー
  5. ロシアの産業多様化・生産性向上
  6. 極東の産業振興・輸出基地化
  7. 先端技術協力
  8. 人的交流の抜本的拡大

のことです。

要するに安倍さんはプーチンに、「金と技術をあげるから仲よくしようよ」と提案した。日本の金と技術だけが欲しいプーチンは、もちろん食いついてきました。そして、2016年12月のプーチン訪日が実現し、日ロ関係は「ソ連崩壊後ベスト」と言えるほど改善されることになったのです。

中国が大いに焦ったことは、すでに書きました。ところが、安倍さんの真意は、ほとんど知られていません。日本の政治家もマスコミも国民も、「日ロ関係は、北方領土だけ」と考え、安倍さんに圧力をかけます。

そこで安倍さんは2018年11月、大きな決断を行います。つまり、「4島一括返還」ではなく、「2島返還」にシフトしたのです。安倍さんとしては、「2島返還は1956年の日ソ共同宣言に明記されているので、プーチンを説得できる」と考えたのかもしれません。

しかし、既述のように、プーチンには、「北方領土を返す気」が全然ありません。4島だけでなく、2島でもです。そこで、ごちゃごちゃと理屈を言うようになってきた。

たとえば2019年3月、プーチンは、北方領土を解決するためには、「まず日本が日米安保条約から離脱しなければならない」と言いました。要するに、プーチンはもとから返す気がなかったということです。

安倍さんが、「金と技術をあげますよ」と言うと、にっこり微笑み、近寄ってくる。でも、安倍さんが、「2島でどうですか?日ソ共同宣言にもありますし」と言うと、「じゃあ、日米安保から離脱しろ!」と無茶を言う。

ここまでで、私の説、

  • ロシアが日本から欲しいのは技術と金だけ
  • 北方領土返還をほのめかすことで、日本から技術と金をもらう
  • でも、結局北方領土は返さない

が事実であることがわかったでしょう。

ラブロフが、「すべての領土を巡る論争は終わった」などと言っています。日本政府は「遺憾砲」発射でしょうか?ですが、本質は、何も変わっていません。プーチンは、今も昔も大昔も、「北方領土を返そう」と思ったことはないのです。プーチンが欲しいのは、日本の金と技術だけです。

日本は、この事実を知ったうえで、「ロシアとどうつきあっていこうか?」と考える必要があります。安倍さんのように、「ロシアを対中包囲網に入れれば、中国に勝てる」と考えるのか。それとも岸田さんのように、「ウクライナに侵略したロシアの味方をすれば、日本は北朝鮮、シリア、ベラルーシ、エリトリアの仲間入りだ。ここは、はっきりウクライナ側につこう!」と考えるのか。

いずれにしても、ウクライナ戦争が続いている間は、現状の冷戦路線維持でいくしかないでしょう。そして、プーチン後は、「北方領土返還の可能性」がでてくるかもしれないことを強調しておきたいと思います。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル2023年12月19日号より一部抜粋)

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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