完全に見捨てられたウクライナ…世界は「絶望しかない時代」に突入した

 

戦争の種となる「もっと、もっと」という心理

ここまで挙げた例は、数だけを見ても惨劇・悲劇という表現が合うかと思いますが、残念ながら「国際社会」は、抗議の声を上げることなく、沈黙を保ち、悲劇は繰り返され、拡大しています。

でも同じ“私たち国際社会”は、イスラエルとハマスの戦いに巻き込まれて命を失った2万人ほどのガザの市民の死とそれを招いたイスラエル軍とハマスに対して激しく怒りの声を上げ、ロシアによるウクライナ人への蛮行に対しても涙し、ロシアに対する抗議の声を上げ、自らの日常生活に支障をきたしても、ロシアへの制裁の悪影響を甘受しつつ、「ロシア派かウクライナ派か、それとも傍観者か」と互いを責め立てて、“国際社会”を分断させています。

ロシアによるウクライナ侵攻に始まった対ロシア制裁の数々は、グローバル化の下で成し得てきた世界の物流網の連帯性をぶった切り、エネルギー・資源・食料などの供給危機を引き起こしています。

そこにイスラエルとハマスの戦いが加わり、ハマスを支持するフーシー派が主導して紅海における船舶への攻撃をおこなったことによって、次々と海運会社が紅海ルートの中止を表明し、その結果、海運網が途切れ、さらなる状況の悪化が予想されます。スエズ運河から紅海ルートは、世界の原油・天然ガスの15%が通過する海域ですが、ここを避けて、タンカーなどが遠回りすることで、運搬する資源やエネルギー源の価格高騰に連結する懸念が高まります。

ただでさえ高いエネルギー料金、供給網が狂ってしまっている食糧、世界の穀倉庫ウクライナが生産不能に陥った後、供給源として注目されたはずのアメリカも、バイデン政権によるエネルギー政策の結果を受けて、飼料用のトウモロコシ価格が暴騰し、バイオエタノール転用により失われる家畜用トウモロコシの供給がひきおこす畜産・酪農セクターへの大打撃…。いろいろな危機が今後、同時多発的に起きて、事態が急激に悪化する可能性が多方面から指摘されています。

その影響をもろに受けるのが南アジア諸国、島嶼国、サハラ以南のアフリカ諸国と言われていますが、その悪影響はすぐにグローバル化された世界を通じて先進国にも押し寄せてくることになります。

私が紛争調停官という仕事にこれまで携わってきたなかではっきりと見えてきているのが、【戦争は宗教や民族の違いによって起きるのではなく、隣人のものを少しでも欲しいと考えて、自分の欲を満たすために起こすもの】という悲しい現実です。

言い換えると“もっと、もっと”の心理が戦争の種となります。

リーダーは常に国民や社員を喜ばせなくてはなりません。今のままでも十分に素晴らしいはずなのに、国民や社会、消費者はすぐに持っているものに飽きてしまい、もっともっとを欲する私たちの性が、リーダーたちを戦争に掻き立ててしまいます。

その傾向は、国際政治学や地政学の分野でよく用いられるランドパワーの国々でも、シーパワーの国々でも共通して存在します。

「ロシアや中国のような陸続きで隣国が多数存在する国にとっては、それらの国々から攻められず、自国民を満足させるためには、隣国を攻めて拡大する他ないのだ」というのは、ランドパワー理論でよく語られるもので、確かによく特徴を捉えているなと感じます。ただこのランドパワー理論に分類される勢力の特徴は、良くも悪くも“隣接しないもの・国に対しては、直接的な関心を、本気で抱かない”というものですので、あまり“国際紛争”に武力介入という形式で、首を突っ込んできません。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

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