運・不運は「事後的」にわかること。後悔ばかりしている人がいつまでも不幸なワケ

 

個々人の人生を過去に遡ってやり直すことは不可能だ。後悔ばかりしている人が不幸なのは、もし別の選択をしていれば、もっと幸福になっていたかもしれないと、不可能な夢を見ることに、貴重な時間を費やしてしまうからだ。どんな人にとっても、残された人生は現在と未来しかない。現状で、最も良いと思われる選択をしたら、後は後悔しないことだ。こういう人には運が付いて回ると思う。この文脈では運とは未来の可能性の別名なのだ。

前回と前々回に、キャスリン・ペイジ・ハーデン『遺伝と平等』を紹介したが、ハーデンはこの中で、どんな環境にある親の元に生まれるかと、どんなDNAの組み合わせで生まれるかは運であって、本人の責任ではないと述べた。前者は「社会くじ」、後者は「遺伝くじ」である。資産家の家に生まれた(良い社会くじを引いた)人や、優れた知能と相関する遺伝的バリアントを持つ(良い遺伝くじを引いた)人は、確かにそうでない人に比べ恵まれた人生を送れる確率は高くなるので、この2つのくじの不平等を是正するために、何らかの介入をすべきだというハーデンの主張は首肯できる。

しかし、「社会くじ」と「遺伝くじ」の性格は全く異なる。親の資産による不平等は誰にでも分かりやすいし、これを是正する社会的な介入を行うべきだという意見は多くの人々の賛同を得やすい。例えば、親の所得が低ければ、高等教育の学費を補助したり、優先的に奨学金を支給したりといった政策はごく一般的だろう。しかし「遺伝くじ」に関しては事はいささか厄介だ──(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2023年12月22日号より一部抜粋)

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