[城山]
本田宗一郎さんに、あなたがやってきたことは究極のところ、何なのか、とうかがったことがあるんです。するとお答えは、絶えず洪水を起こしてきたことだ、ということでした。
[小島]
洪水ね。
[城山]
ある時期、資本金の何倍もの投資をして、欧米の一級の機械を、設備した。
欧米に追いつき追い越すのが、日本の課題だったころです。
しかし、その機械設備を仕様書どおりに使っていては、追いつくことはできても、追い抜くことはできない。
で、仕様書以上の使い方をする。
すると、当然壊れるわけです。
そこで壊れないように改善する。
こうして機械がもつ十の機能を十五にして使うことを可能にした。技術力が飛躍的に向上した。
資本金の何倍も投資することも洪水なら、そうして設備した機械に仕様書以上の機能をもたせる使い方をするのも洪水です。合理的に判断したら、こういうことは出てこない。
[小島]
その合理的判断を飛び越えるもの、それが、つまりは創業者魂でしょう。
ま、ひと口に創業者魂といってしまえば簡単だが、そのなかには賭けの要素もあれば、使命感もある。
[城山]
洪水には肥沃な土壌をもたらすというプラス面もあるわけだが、半面には洪水の被害をもたらすというマイナス面も大きいので、マイナス面だけに捉われやすい。
そういう人は事業を起こしても、あまり伸びませんね。
そうではなく、マイナス面も十分に承知している。
そのマイナス面の痛みを引きずりながら、それでも洪水を起こすことに賭けていく。
そういう視野の広さ、懐の深さが創業者といわれる人にはあって、それが人間的な魅力になっていますね。本田宗一郎さんにはそれがある。
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