宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』、山崎貴監督『ゴジラ-1.0』の日本映画2作品が米アカデミー賞を受賞。映画の道を志す人が増加しそうな快挙をスマホの進化が後押ししてくれるかもしれません。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、アップルが全編iPhoneで撮影したショートフィルム『ミッドナイト』を公開したニュースを紹介。画質とアクションモードの向上で、誰もが映画を撮れ、世界に向けて公開できる環境が整っているとして、名もなきクリエイターが賞を獲る時代が来ると伝えています。
アップルが全編iPhoneで撮影した「ミッドナイト」を公開──各スマホメーカーの「映画も撮れます」アピールが過熱
アップルは全編、iPhoneで撮影したショートフィルム『ミッドナイト』をYouTubeやApple TVで公開した。プレミア試写会には出演した賀来賢人さん、加藤小夏さん、小澤征悦さん、三池崇史監督が登壇した。
もはや映画撮影の現場において、iPhoneが使われること自体は珍しくない。『シン・ウルトラマン』の樋口真嗣監督には自分がやっているラジオ番組「スマホNo.1メディア」にゲストとして出てもらい、撮影現場におけるiPhone活用の利点を語ってもらったこともある。
ミッドナイトの北信康撮影監督も語っていたが、iPhoneは「映画用のカメラを設置できないところに置ける」というメリットが一番大きいようだ。
『シン・ウルトラマン』ではセットのなかに大量にiPhoneを配置し、1シーンを同時に様々な角度から撮影すると言う手法がとられていたようだし、『ミッドナイト』では、クルマのアクセルペダルの横にiPhoneを設置し、賀来賢人さんがアクセルを踏む様子を撮影していた。
さらに『ミッドナイト』では加藤小夏さんが全力疾走するシーンがあるのだが、これまでの映画なら車両を併走させて走ったり、レールを引いて、台車のようなものを走らせるといったことをしていたが、iPhoneであれば、カメラマンが手持ちで撮影し、加藤小夏さんの横を走り、前に回って表情を捉えるといった撮影が可能になったようだ。
いずれも、iPhoneでも、映画に耐えられる画質で撮影できるというのが大きいだろう。全力疾走で併走するシーンもアクションモードがあるからこそ、手ぶれの少ない映像で撮影できるようだ。
アップルを筆頭に、ここ最近、GalaxyやXiaomiなど「映画クオリティの映像が撮れますよ」というアピールをするメーカーが本当に増えた。映画とのシナジーをアピールしてきたのはXperiaも一緒だが、Xperiaはカメラアプリを搭載するものの、それでソニー自身が「Xperiaで映画を撮影しました」までの訴求はせず、「映画の現場でモニター代わりにできます」に留まっていたように思う。
さすがに映画撮影のための専用カメラを出しているメーカーとすれば、ユーザーに対して「映画っぽく撮影できるアプリ」は提供できても、気安く映画をXperiaで撮影するというところまでは踏み込めないのかも知れない。
三池崇史監督が語っていたがスマホという「映画を撮影できるカメラを誰もが普段から持っている環境」というのは、クリエイターを増やすポテンシャルは計り知れない。それこそ、若者だけでなく、あらゆる人がすぐにでも映像作品を作って、世界に公開できる環境が整っているのだ。
今後、スマホだけで撮影した名もなきクリエイターが、世間を感動させる映画を作り、賞を獲るなんてことは珍しくなくなるのだろう。ただ、スマートフォンのカメラで映画クオリティの映像を撮影できるとアピールしただけではメーカーとしてはまだまだ努力が足りない。やはり、単に撮影できるだけでなく、「編集が簡単」というアプリも提供しないことにはクリエイターは育たない。その点、Xperiaは去年から編集アプリをようやく搭載し始めたので、その点においては一歩前進といったところだろう。
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