習近平政権の批判ありき。日本人が喜ぶ「つまみ食い報道」を繰り返すマスコミに踊らされる“おめでたい人々”

 

実際、日本はこれまで中国の変化を大きく見誤ってきた。

凄まじい勢いで国民に普及したスマートフォンを背景に急速に進んだ社会のキャッシュレス化。爆発的な勢いを見せたライブコマースとそれにともなう流通網の整備。世界的規模にまで成長した家電メーカーや電気自動車産業の台頭。水質汚染、大気汚染に悩んでいた姿から短期間のうちに脱却し、環境を整備すると同時に太陽光・風力発電でリーディングカンパニーを数多く輩出する国へと変貌したことなど、数えれば枚挙に暇がない。

言うまでもなくこれらの変化にはすべて予兆があり、萌芽もあった。それなのに、たいていのケースで日本はそれらを見落とし、目の前に疑いようのない現実を突きつけられてはじめて驚くということを繰り返してきた。

前例に倣えば、今度の全人代が打ち出した「新たな質の高い生産力」も新たな変化の予兆に違いない。

習近平政権は欧米社会に評価されるために政治をしているわけではない。人口の最大ボリュームゾーンを占める農民や労働者のために政策を練ってきたことは報告の全文を読めばよく分かる。

その一つが「脱貧困」への取り組みだ。

中国共産党が結党100周年という大きな節目を祝うために全力で取り組んできたのが「脱貧困(小康社会実現のための)」だ。コロナ禍の2021年、それを達成したことが習指導部の大いなる誇りだった。

そして今回の報告でも「脱貧困の継続」が叫ばれ、脱貧困が瞬間風速に終わってはならないという戒めが記されている。

これは「先に富む」ことにブレーキをかけ「共同富裕」へとシフトさせた変化にも通じる。そして今回、西側社会やマーケットが注目する「目先の景気対策」より、貧困の逆流防止や徹底した就職支援、可処分所得の重視や養老金(年金)増額などに力を入れたことは、彼ら姿勢が一貫していることの表れだ。

習指導部のこうしたかじ取りの成否が明らかになるのは、まだ少し先の話だ。しかも、それは痛みに耐える時間だと言われている。

「新たな質の高い生産力」が意味するのは従来型発展モデルからの脱却だ。北京大学国家発展研究院中国経済研究センター主任の姚洋教授はこれを「粗放で外向き拡張型の成長モデルから、内側の発展を中心とし、イノベーションを動力とする発展モデル」への転換だと解説する。そして変化には「債務への過度な依存や金融、不動産の膨張といった構造的な問題の調整」に付随して「痛みがともなう」と警告する。

中国がもし確信犯的に不動産市況の低迷に耐えているのだとしたら、少し恐ろしいことなのではないだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年3月17日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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