イスラエルの「イラン本土」報復攻撃、専門家が最悪シナリオを憂慮する訳。ネタニヤフ首相が予定調和破り「核使用」決断も

 

イラン・イスラエル間の「出来レース」が誘発する破滅的事象

とっくの昔にネタニヤフ首相は、中東和平実現のために必要とされる、パレスチナとの2国家共存というアイデアを葬り去ったのかもしれません。

ユダヤ民族の安全保障観を具現化した戦略を着実に推し進め、本気でガザの完全破壊とハマスの壊滅、そして自ら(イスラエル)の生存を脅かす存在であるパレスチナ人と国家の潰滅というプランに着手しているからこそ、停戦に応じることも、戦いの手を緩めることもできなくなっているように見えます。

そんなネタニヤフ首相の姿勢を後押ししそうなのが、4月15日に起きたイランによる対イスラエル報復です。

1979年のイラン革命以降、常に敵対し、地域における脅威としてイランと対峙してきたイスラエルですが、不思議なことに4月15日までは一度も互いの領土に攻撃することはなかったのです。

今回の事の発端になった4月1日の在シリア(ダマスカス)イラン大使館への“イスラエルによる”攻撃とイラン革命防衛隊の幹部の殺害でさえ、イスラエルはイランの国外での攻撃というこれまでの手法を変えていません。

しかし、イラン側は国内の強硬派からの突き上げもあり、ついにレッドラインと考えてきたイスラエル本土への直接攻撃に踏み切り、国内のガス抜き(対イスラエルと対シーア派宗教指導体制)を行う決定をしたものと思われます。

ただ、本気でイスラエルを攻撃する気はなく、事前にアメリカや英国に通告し、イスラエルに対してもドローン攻撃機や巡航ミサイルなどを発射後すぐに通告して、あえて撃墜させて被害を最小化するというエスカレーション回避の対応を取っています。

実際にイスラエル軍とアメリカ、英国、フランス、ヨルダンなどの軍によって99%のミサイルが撃墜されていますが、もし本気で攻撃することに決めて、イスラエル軍とその仲間たちの迎撃能力を超える飽和攻撃を実行し、おまけに速度の速い弾道ミサイルを多数使用していたとしたら、それは報復の域を超え、イスラエルに対する宣戦布告になっていた恐れもあります。

そのぎりぎりの線を確かめ、「シリアでの一件に対する報復作戦はこれで完遂したので、これ以上の攻撃の必要性はない」とエスカレーションの意思がないことを明言しつつ、「イスラエルの反応次第では、イランは本格的な攻撃をしなくてはならなくなる」とイスラエルにエスカレーションを回避するように暗にメッセージも送っています。

通常ならばこれで終わりになると考えられますし、バイデン大統領もネタニヤフ首相に対して「対イラン攻撃作戦にはアメリカ軍は参加しない」と明言していますので、外交的な非難と制裁の強化は行っても、武力行使はないと考えられます。

しかし、現在、ネタニヤフ首相は対ハマス掃討作戦の真っ最中であり、アメリカを含む同盟国からの自制の要請と非難を受けても我が道を突き進む姿勢をとっていることや、戦時内閣内でも、その時期と方法については合意が形成されていないものの「対イラン報復はマスト」という方向性は共有されていることが大きな懸念材料です。

もし戦時内閣内でのパワーバランスがネタニヤフ首相や極右勢力寄りに傾いたら、イラン本土への攻撃というレッドラインを超える対応を行う可能性があるのです。

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