ウイルスにすら通じる習近平のご威光。“親分”の命令や指導で解決する中国の課題

 

2.親分は万能のスーパーマン

中国では人脈が大切と言われる。また、中国は法治社会ではなく人治社会とも言われる。

中国は戦国時代のような国だ。強い親分が集団を支配し、親分同士で常に権力闘争を行っている。油断しているとライバルに足元をすくわれるのだ。

社長は企業では絶対的な権力を持っている。総書記は共産党の絶対的な権力を持っている。組織を統括する親分は万能のスーパーマンであり、法律やルールに縛られない。親分がルールブックなのだ。

親分になれない一般人は、強い親分の信頼を得ることで、有利なポジションに就くことができる。組織より個人が優先しているのだ。

日本はルールがあり、組織があり、その下に個人がいる。私はかって、中国企業の再建の支援チームに参加したことがある。中国企業に多額の投資をした日本の商社が経営改善に乗り出したのだ。彼らは日本の手法で経営改善を行おうとした。

ワンマン社長を退かせ、経営会議で会社を管理する。そのためのルールを設定し、役員に日本人を参加させる。しかし、この試みは全く機能しなかった。そもそも、日本の商社の人間のいうことを誰も聞かない。ルールを決めても、その通りに動かない。

その企業の社長は、商社から資金を引き出したことで、目的を達成していた。どうせ商社の人間は、数年で日本に帰る。適当にやり過ごせばいいと考えていた。従って、現場は日本チームと隔離しており、何の影響力も持っていなかったのだ。

私は中国の事情に合わせた改革を商社に提案した。社長を退任させるのではなく、むしろ、日本チームが社長個人を補佐して、現場の改善を優先させるべきではないか、と。私の提案は商社の方針と乖離しており、私の契約は打ち切りとなった。

親分子分の関係が強固で、義理の親子の盃、兄弟盃でつながっている組織に、外国の企業のメンバーが受けいれられることはない。

中国の本質が見えるに従って、私も中国ビジネスから遠ざかっていった。日本人である私が中国社会の中で何ができるのか。何かしたとしても、本当にそれが役立つのかが分からなくなったのだ。

3.ルールを守る訓練

昔、中国の大学教授から「日本人はルールを守る訓練を受けているが、中国人はルールを守る訓練ができていない」と言われたことがある。

中国ではドタキャンが多い。面会をアポイントを取ったのに、その時間に訪問しても相手がいない。あるいは、日本に出張していた中国人が予定をキャンセルして突然帰国してしまう。これは、親分の鶴の一声があったからだ。

日本では、約束を優先する。少なくとも、約束を変更するなら、相手の了解を得てからになる。しかし、親分子分の世界では、アポイントなしに親分が突然来ることもある。どんな約束があっても、親分を優先する。親分の方もそれを知っているので、わざと約束なしに突然訪問する。

約束より人間関係を優先する。それが中国のルールなのだ。だから、友人関係でも、親戚でも突然訪問することは許される。あまり大切ではない、外国の訪問者との約束は反故にしても問題ないと判断される。

そのため、再三のアポイント確認が必要になる。1週間前に確認し、3日前に確認し、前日に確認し、直前に確認する。それでも、つかまらないことが少なくない。約束の時間に遅れても謝らない。でも、こちらが遅れれば激怒する。全ては個人と個人の人間関係が基本なのだ。

当然、逆のことも起きる。約束もしていないのに、突然何かを頼まれるのだ。

例えば、パーティーに参加すると、いきなり表彰式のプレゼンターを頼まれる。突然、インタビュー動画に出演してくれと言われる。約束も計画もなしに、本番が始まる。中国では、それをこなすのが当然だと考えている。

講演でも、前日の夜にスピーチの時間が変更になったり、内容の変更を依頼されることがある。徹夜で資料の修正をして、翌日になると、更なる変更を頼まれる。朦朧とする中で、講演の直前に偉いさんとの会食に連れて行かれ、白酒の乾杯をする。その直後に、講演の本番が始まるのだ。これを繰り返すと、準備をするのが馬鹿らしくなる。ぶっけ本番でやればいい、と思ってしまう。

中国に馴染むと、日本では仕事ができなくなる。日本と中国では、人々が行動する原理が全く異なっているのだ。

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