「武器の70%を提供」の衝撃。ガザ「停戦」への努力を台無しにした米国の無責任

 

核や最新鋭兵器が一番の攻撃力を有する時

ウクライナの背後に控える欧米諸国も、ロシアに対する経済制裁を厳格に適用すれば、ロシアはぐうの音も出ずに侵略を諦めるだろうと高を括っていたら、ロシア包囲網に参加する国が少なく、かつ制裁逃れが横行したことと、エネルギー安全保障上、完全なロシア離れが出来なかった欧州と、ロシアによるディスカウントを受けてロシア産の原油と天然ガスを仕入れ、ロシアに外貨をもたらした中国やイラン、そしてグローバルサウスの国々による間接的ロシア支援により、“制裁がほぼ効いていない状況”が作り上げられてしまい、ロシアに戦時経済体制を確立するための時間的余裕を与えてしまいました。

結果、ロシアは補給線を構築し、ウクライナ軍を迎撃する体制を確立しながら、攻撃のレベルをより高度かつ精密に上げることに成功したと思われます。

しかし、腑に落ちないのは、一気にウクライナの息の根を止めるだけの軍事力と手段を持っているにもかかわらず、軍事的に勝つことを目指さず(選ばず)、強者が弱者をいたぶり、決して止めを刺さずに叩き続け、戦争をあえて長期化させているのかということです。

核兵器を用いることを決して許容することはありませんが、非核の最新鋭兵器も多く保持し実戦配備していて、いつでもstand readyになっているはずなのに、それをつかわない。

NATO各国はロシアによる核兵器使用の場合には、それ相応の反応を行うというものの、NATOの加盟国でもなく、かつEUの加盟国でもないウクライナに対して、ロシアが戦術核兵器を用いたとしても、集団的自衛権は行使されず、かつロシアとの直接的な対決、軍事衝突を極限に恐れる欧米諸国の立ち位置から、口先だけのロシア非難はしても、ウクライナを守るための本格介入をしてロシアと事を構えることは絶対にしないことが分かっていますので、ロシアはやりたい放題のはずですが、それもしないのはなぜなのでしょうか?

これについては以前、たまたまロシア人とウクライナ人の専門家が言っていましたが、「核兵器にせよ、圧倒的な兵器にせよ、使うぞと脅しに使われている時が、実は一番の攻撃力を有する。使用されたらただで済まないことはみな分かっているから、それを使わせたくないとの思いから、使用しなくても大きな力として作用する。使ってしまったら、物理的な破壊は引き起こすが、人を動かすための心理的な効果は無くなるに等しいので、自らの影響力と発言力を高め、かつ他国・他者による介入を防止するなら、いつでも使える状況に置きつつ、使わないのが賢明だと考える」と話していました。

よく似たことは、ハマス壊滅を目指し、ガザ地区をとことん破壊しているイスラエル政府とイスラエル軍にも言えます。

公式には核兵器の保有を認めていませんが、イスラエルが核兵器を保有することは、いわば公然の情報であり、10月7日のハマスによる同時攻撃の直後には、政権内の極右勢力を中心にガザ・ハマスに対する核兵器の使用を進める声も上がりました。さすがにネタニエフ首相もすぐに否定していますが、それは「必要があればイスラエル国民とユダヤの土地を守るために使用することを厭わない」という決意にも解釈できました。

空爆に地上作戦と、圧倒的な力をもってハマスに対峙するイスラエル軍ですが、“ハマスの残党”を殺害するための作戦は、もうすでに3万5,000人近いガザ市民の命を奪い、攻撃による死亡を免れても、イスラエルによるガザ地区封鎖措置とインフラ施設への攻撃により、ガザ市民の人道状況は劣悪な状況に陥っていることが分かっています。

昔でいう兵糧攻め・水攻めのような様相も窺えますが、「ハマスの壊滅」という目標を掲げるネタニエフ首相とイスラエル軍は、その攻撃の手を緩めることはありません。

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