アメリカがイスラエルを見捨てることが出来ない理由
とはいえ、望めばガザを軍事的に制圧してしまえる十分な力を持っているにも関わらず、それを使わずに、ネタニエフ首相とイスラエル軍は一体何をしようとし、目指しているのでしょうか?
残酷な言い方をすれば、ガザ在住のパレスチナ人を生贄にして、イスラエルの生存と存続に向けた非常に強い欲望と、周辺のアラブに対する恐怖を跳ね返すための覚悟を見せるために、こちらも反抗しようがない人たちをいたぶり続けているのでしょうか?恐怖を植え付け、二度と反攻し、イスラエルに存在の脅威を与えないように。
10月7日直後から、イスラエルとハマス双方にチャンネルをもつカタール政府が仲介に乗り出し、ガザと物理的に隣接し、地域における影響力を誇示したいエジプトと、イスラエルの抑止力となり得るアメリカ政府が仲介に乗り出しますが、これまでに何度かお話ししているように、イスラエルとハマスの代表の直接交渉・協議は表向きには実現しておらず、常にカタールを通じた間接的な交渉に留まっています。そしてエジプト政府は協議の場所を提供し、アメリカがイスラエルを宥めるという構図が選択されているのですが、絶え間ない努力とアイデアの提供を通じた折衝も、【イスラエルのニーズと懸念】と【ハマスの要求】の間の溝を埋めることが出来ておらず、交渉による問題解決の扉は閉まりかけている状況です。
この状況はイスラエルとハマス双方に態勢の立て直しのチャンスを与えていますし、イスラエルに対しては念願のハマス掃討と、パレスチナへの本格攻撃の口実を与えることになっています。
世界の目はラファの悲劇に向けられていますが、その背後ではヨルダン川西岸へのイスラエル軍による絶え間ない攻撃が存在しますし、一度は停止していたはずのガザ北部での軍事作戦も本格的に再開されており、イスラエル政府とネタニエフ首相はじわりじわりとパレスチナへの侵攻の範囲とレベルを高めて、あわよくばパレスチナを壊滅させてしまおうと動いているようにも見えます。
ネタニエフ首相によるラファへの本格的な侵攻の予告と、その実行を予見させる部隊の集結という示威行為は、同盟国のアメリカ政府のレッドラインも超え、国内外で広がり高まるバイデン政権への批判と反イスラエルの動きにも押され、久々にアメリカ政府がイスラエル政府に対して、これまで行ってきた武器提供を停止すると圧力をかけて、アメリカがレッドラインと明言するラファへの“本格的な”軍事作戦と人道状況のこれ以上の悪化を食い止めるために、イスラエルの説得にあたっていますが、ご存じの通り、ネタニエフ首相は聞く耳を持たず、意固地になって「イスラエルは単独でも必要なあらゆる作戦を実行するし、その遂行のための武器は十分ある」と表明して頑なな姿勢を変えようとしません。
そのような姿勢に対してアメリカ政府は、明言は避けるものの、これまでに供与したアメリカ製の武器がガザで使用され、一般市民に多大な被害を与えていることは国際法・国際人道法違反の可能性が高いと認めているものの、煮え切らない姿勢に非難がまた高まっています。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2019年から2023年までにイスラエルに対して提供されている武器の70%以上がアメリカから行われており(30%弱がドイツから)、今、ガザで行われているイスラエルによる一般市民の殺戮の責任はアメリカにもある可能性が高いという非難が飛んでいます。
でもここでアメリカがイスラエルを見捨てることが出来ない理由が、このところ、アメリカが去った後、その穴を中国とロシアが埋めるという傾向が鮮明になっており、アメリカにとって長年、中東・欧州地域の戦略的なパートナーとしてのイスラエルに中国とロシアが接近して、武器供与を行うことで、イスラエルのアメリカ離れが起きることは決して許容できないという立場もあります。
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