スティーブ・ジョブズ本の翻訳者が、彼の一人称を「僕」にしたワケ

 

さっそく、気になるポイントを赤ペンチェックしてみましょう。

それにしてもどこが版権を取ったのだろう。ジョブズ関連の翻訳なら私を真っ先に考えるという出版社じゃないんだろうな。だったら、すぐ連絡が入るはずだもん。であれば取りに行こう。全力で。

まずは、『iSteve』の紹介という体裁を取りつつ、版権を取った出版社さんにアピールするブログ記事を書きました。『iSteve』の版権を獲得した出版社の編集さんが読んでくださるかどうかはわかりませんが、とにかく、打てる手はすべて打とうと思ったのです。

好みもわからず適当に選んでもごくふつうのおみやげにしかならず、印象に残るはずがありません。であればいっそと、鹿の角という奇策に走ることにしました。

(分担すれば)『スティーブ・ジョブズ』のような伝記はおかしくなりがちです。主人公は最初から最後までずっと登場していて、成長に従って少しずつ口調や感情などが変化していくものだからです

たとえば一人称。英語はなんでもかんでも「I」ですが、日本語はいろいろとあります。テレビなど公的な場でしゃべっているところなら「私」が無難ですが、親しい相手と話しているときは違う一人称を使うことが考えられます。僕、ぼく、俺、オレ……これだけで雰囲気がだいぶ変わります。『スティーブ・ジョブズ』では、親しい相手との会話は「僕」にしました。人なつっこいウォズニアックは一段柔らかく、全面的に「ぼく」です

一人称も漢字・かなの使い分けも、あとから直そうとすると大変なことになります。それもあって、初めて一緒に仕事をする編集さんには、最初の章を粗訳の段階で見てもらう

私も、足してしまうのは翻訳ではないと考えています。ですが、原文読者が当然に持っている前提知識だから書かれていないけど、訳文読者にその前提知識がないことであれば、きちんと書かないと、伝わるはずのことが伝わらない

「ホテルオークラでうなぎの寿司なんぞ出てくるのか?」と思うでしょう。うなぎの寿司、私は好きなんですけど、ゲテモノネタであり、回らない寿司屋では出てきませんから。だから日本語版は「穴子」と現実に合わせてあります

ノンフィクションの翻訳では、英語にどう書かれているのかがもちろん大切なのですが、現実がどうなっているのかも無視できません

子どもには「テストに出ないこと」を教える

終わりの方に、『イーロン・マスク』プロジェクト中の著者の1日のスケジュールが円グラフで描かれているのですが、4時半から7時まで翻訳、8時から12時まで翻訳、13時から16時半まで翻訳、その後トレーニングして、晩酌しながら参考図書を読み、風呂、洗濯、ストレッチして就寝という、驚くべきスケジュールです。

やはり、一流の人は心構えも技術も時間の使い方も、すべてが違いますね。

ぜひ読んでみてください。

image by:  Antlii / Shutterstock.com

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Amazon.co.j立ち上げに参画した元バイヤー、元読売新聞コラムニスト、元B11「ベストセラーBookV」レギュラーコメンテーター、元ラジオNIKKEIレギュラー。現在は、ビジネス書評家、著者、講演家、コンサルタントとして活動中の土井英司が、旬のビジネス書の儲かる「読みどころ」をピンポイント紹介。毎日発行、開始から既に4000号を超える殿堂入りメルマガです。テーマ:「出版/自分ブランド/独立・起業」

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【著者】 土井英司 【発行周期】 日刊

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