四十もの転職を繰り返した後、ついに全身全霊で打ち込める仕事が巡ってきます。タイヤのセールスをしていた時に知り合った石油会社の支配人から、ガソリンスタンドの経営を勧められたのです。もし、彼が給料目当てのいい加減な仕事ぶりであったならそんな声はかからなかったでしょう。
サンダースはガソリンスタンドの経営者として独立しました。ガソリン給油の他、サービスとして窓ガラスの清掃、ラジエイターの水、タイヤの空気圧の点検を実施し、ケンタッキー州で評判の店となります。四十以上の転職によって培われた客のニーズ把握とサービス精神が結実したのです。
しかし、せっかくの成功も1929年のニューヨーク株式市場の大暴落に端を発する世界恐慌の波に押し流されてしまいます。当初、彼は地元農家のためにガソリンを後払い売っていました。ところが、悪いことは重なるもので、恐慌に加えて大干ばつが襲いかかったのです。これにより、農家も倒産が相次ぎ、サンダースのガソリンスタンドも潰れてしまいました。
それでも、お客本意の彼のガソリンスタンド経営は高い評価を受け、シェル石油からガソリンスタンド経営を持ちかけられました。
サンダースは喜び勇んで新たなガソリンスタンドの経営を行います。以前にも増した工夫を彼は凝らしました。過去の成功体験に満足しないのが彼の信条なのかもしれません。ガソリンスタンドの敷地内にカフェレストランを建てたのです。
料理はサンダースが作りました。これが評判を呼び、道路を挟んだ土地を譲られ、カフェレストランを移しました。ガソリンスタンド、カフェレストラン共に以前にも増して大評判となり、サンダースはケンタッキー州の知事から州の料理への貢献が認められ、「ケンタッキー・カーネル」の称号を送られました。
時にサンダース四十五歳でした。二年後にはガソリンスタンドの裏手にモーテルを開業、四十以上の転職の苦労が実り、実業家として成功を納めた……、と、これだけでも立派なサクセスストーリーです。
しかし、カーネル・サンダースの人生はこれからも激動します。というか、これからがカーネル・サンダースの逆転人生がスタートするのです。(次回につづく)
image by: Patcharaporn Puttipon4289 / Shutterstock.com