札幌市立中いじめ自殺事件を扱ったSTVラジオ「及び腰」の報道姿勢に抱く疑問

 

質の高い番組の制作・放送を促し、放送技術の質的向上と放送活動の発展のために、民放各社が放送した番組を部門・種目別に表彰する「日本民間放送連盟賞」。評論家の佐高信さんは、今年も北海道・東北地区のラジオ報道部門の審査員を務めたそうです。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、まず出品作に原発事故を扱った番組がないことを疑問視。3年前に札幌市起こった中学校1年生のいじめ自殺を扱ったSTVラジオの報道姿勢については、その「及び腰」を厳しく批判しています。

「糾弾するだけでは」という及び腰

今年もまた、民間放送連盟賞「北海道・東北地区」ラジオ報道部門の審査に携った。昨年も同じことを言ったのだが、残念ながら原発事故を扱ったものがない。処理水と表現するよう執拗に迫った汚染水の放出も大問題であるはずなのに、ノータッチなのである。大震災についても、岩手放送が「命てんでんこ」(ひとりひとりで逃げる)という言葉の重さを歴史の中で取り上げているぐらいだった。

私がちょっと興奮して批判したのはSTV(札幌テレビ放送)ラジオの「いじめという殺人」の報道姿勢である。

2021年10月、札幌市立中学校に通う1年生の女子生徒がいじめを苦に自殺した。彼女は自殺しようとしていたことを教師に知られた後、ノートにこう書いていた。

「なぜ、助けてくれもしない人が自殺を止めようとする?話をきいてくれない人がなぜ私が自殺しようとすると怒る?」

家では明るい娘だったという彼女の親は、「このようなことは二度と起きてほしくない。二度と起きないようにするべきです」と声を振りしぼるが、再発防止を口にする教育長の言葉などが、聞いている私が苛立つほどにタテマエなのである。

それは札幌市教育委員会の「学校、家庭、地域総ぐるみで、いじめは『しない、させない、許さない』を徹底する」という方針を読んだだけでもわかるだろう。交通事故をなくすためのキャンペーンの標語ではない。この件の調査報告書が黒塗りだらけだったということからも、本気でいじめをなくそうとしているのかが疑わしい。

私は、教育長の言葉など要らないのではないか、と指摘した。学校や教育委員会に本気度が感じられないのと同時に、私はSTVラジオの制作意図にも及び腰だと反発した。次の部分である。

「行政や学校の不手際を取り上げ、糾弾するだけでは根本的な再発防止にはつながらないと思い、番組では子どもを守るための前向きな議論のきっかけとなれるような構成、内容を意識しました」

糾弾だけかどうかは制作者が判断するのではない。前向きかどうかも同じである。

私は、徹底的な、あるいは糾弾と見られるような事実の解明があってはじめて「前向きな議論」につながるのだと思うが、究明する側がお上品なのである。それが及び腰になり、「困ったもんだ」と嘆くだけの番組になってしまう。学校に行かれなくなった人が通うフリースクールのことも出てくるのだが、どうしても付け足しのように感じられる。

昨年、自ら命を絶った小中学生の数は513人で、前年より格段にふえている。政府は少子化対策などと言っているが、生まれた命に対して無策なのである。歌人の馬場あき子は「おほかたの憎しみの中に吾は愛す師を尊ばぬ子のはつらつさ」と歌ったが、これに共感する教師がどれくらいいるだろうか。

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