中島聡氏が予言。AIの登場で生成コストが千分の一になったソフトウェアがベンチャー企業にもたらす大チャンス

 

ベンチャー企業にとっては大きなチャンスに

一回しか使わないソフトウェアなんて勿体無いと思うかも知れませんが、生成系AIの誕生以前から、そんなソフトウェアの作り方をしているエンジニアたちがいました。いわゆるデータ・サイエンティストと呼ばれる人たちです。

彼らは、与えられた命題(例えば、「ウクライナ戦争が小麦相場に与えた影響の解析」)を解決するために、必要なデータを集め、その命題を解決するためだけのソフトウェアを作って走らせています。多くの場合、そんなソフトウェアは、一回しか使わない「使い捨てソフト」ですが、データ・サイエンティストの仕事は「ソフトウェアを作ること」ではなく、「データ解析をすること」であり、その仕事をするために、必要に応じて、ソフトウェアを作っているのです。

私は、これまでコスト上の理由でデータ・サイエンティストだけにしか出来なかった「必要に応じて使い捨てのソフトウェアを作る」という贅沢なことが、生成系AIのおかげで、さまざまな場面で出来るようになると見ています。

こんなことを言うと、「普通に生活していて使い捨てのソフトウェアが必要になる場面なんかない」と感じる人も多いと思いますが、実は結構あるのです。

分かりやすい例が、何かを希望に応じて割り当てるケースです。附属高校から大学に進学する生徒たちの学科を決めるケースを考えてみてください。生徒一人一人に、自分が希望する学科を第一希望から第三希望まで書かせた上で、各学科の定員を考慮して、どの生徒をどの学科に受け入れるかを決めるようなケースです。

成績が優秀な生徒に優先して学科を選ばせたいかも知れないし、数学が得意な生徒を優先して理科系の学科に入れたいかも知れません。出来るだけ多くの生徒に第一希望の学科に入ってもらうことを重視して決めても良いし、逆に、希望した三つの学科のどれにも入れない生徒の数を最小化したいかも知れません。

ほとんどの場合、この手の問題(「割り当て問題」と呼びます)を解く際には、ある程度ルールを単純化した上で(例:成績順に生徒を並べて、順番に希望の学科に割り当てていく)人手で行うのが一般的です。ルールを複雑にしてしまうと(例:成績の良い生徒の希望をかなえながらも、希望した三つの学科のどれにも入れない生徒の数を最小化する)、とても手間がかかるので、最初からあきらめてしまうのが普通です。

ソフトウェアを使えば、こんな問題ははるかに簡単に解決できます。それぞれの条件にコスト(希望が叶わない=コストが高い)とプライオリティ(重み付け)を設け、合計のコストが最初になるような割り当てを決めれば良いのです。

しかし、この手の問題は、汎用的なアプリやウェブ・サービスで解決することが難しく、それぞれのケースで個別のソフトウェアを作る必要があります。(従来型のソフトウェアの作り方では)ソフトウェアの開発にはそれなりのコストがかかるため、よほど特殊なケースを除いては、ソフトウェアを使うことはありませんでした。

ソフトウェアが生成できるAIの誕生により、この手の「割り当て問題」が生じた時に、必要なソフトウェアを生成して、最適解を求めることがはるかに容易になりました。

まだ生成系AIを使いこなすのは簡単ではありませんが(OpenAIのCode Interpreterが良い例です)、今後、この発想(=必要に応じてソフトウェアを生成して最適解を求める)を応用したアプリやウェブサービスが普及することは確実であり(ベンチャー企業にとっては、大きなチャンスです)、適用範囲も大きく広がると私は見ています。

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