我々の生活に激変をもたらしたと言っても過言ではない、生成系AIの普及。その影響はソフトウェア分野においても「大きすぎる」ことは疑いのない事実と言えそうです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では世界的エンジニアとして知られる中島聡さんが、生成系AIの登場によりソフトウェア生産のコストが従来の千分の一ほどとなった点を重要視。この変化がさまざまなシーンでどのようなことを可能にするかについて、具体例を上げつつ解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:AIがもたらすソフトウェア革命
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
制作コストが千分の一に。中島聡氏が解説、AIがもたらすソフトウェア革命
ニューラルネットを活用することにより、ソフトウェアの作り方が根本的に変わるSoftware2.0に関しては、このメルマガでも何度か触れて来ました。
しかし、それとはもう一つ違う次元で、ソフトウェアの作られ方が大きく変わろうとしているので、今週はそれについて解説しようと思います。
生成系AIの誕生により、様々なものの生産コストが桁違いに安くなったことは、ChatGPTなどを触っている人たちは既に認識していることだと思います。文章だと、翻訳、論文、契約書、特許の申請書などが良い例で、画像や音楽に関しても同様のことが起こりつつあり、ソフトウェアも例外ではありません。
それも生成系AIによるコスト削減は、一桁や二桁や下がったのではなく、三桁、つまり千分の一ぐらいになってしまった点がとても重要です。
コストが千分の一になると、単に安く作れるとか生産性が上がるという量的変化だけでなく、これまでコスト的に見合わなかった部分にまで、生成物が使えるようになるという質的変化が生じる点がとても重要です。
分かりやすい例で言えば、プレゼン資料のイラストです。これまでは、イラストを特注で作ってもらうのはとても高かったため、よほど重要なプレゼンでない限りは、「いらすとや」のようなフリー素材を使うしか選択肢がありませんでしたが、生成系AIを使えば、無料で特注のイラストを作ってもらえるので、それが当たり前になりつつあります。
私は、先日、宣伝会議さんからの依頼で「ビデオ講座:なぜ、あなたの仕事は終わらないのか」を作成しましたが、その時に使用したプレゼン資料のイラストは全て、ChatGPTを活用して描いたものです。
この様に、生成コストが生成系AIの誕生により千分の一になったために「質的な変化」が起きる領域は複数ありますが、その最たるものがソフトウェアです。
生成系AIの誕生前、ソフトウェアの制作コストはとても高かったため、ソフトウェアが適用できる範囲は限定的でした。ソフトウェアと言えば、スマホ・アプリ、ウェブサイトなどがすぐに頭に浮かぶと思いますが、オンラインバンク、飛行機の予約システムなど、業務用のソフトウェアもあります。
それらのソフトウェアは、制作コストが少なくとも数千万円はかかるため、これまでは、何万人もの人が何百回も何千回も使うケースにしか適用することが出来ませんでした。
しかし、ソフトウェアの製作コストが千分の一になると、適用できる範囲が大きく広がります。一人しかユーザーがいないケースとか、極端な話、一回しか使わないケースなどへの応用です。
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