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トヨタ首脳陣よ、どう責任をとるのか?庶民を貧困に追いやって儲けたカネを社会に還元せぬ大企業が自ら首を絞める日

バブル崩壊から30年以上を経ても、改善どころか苦しくなるばかりと言っても過言ではない国民の生活。なぜ我々庶民は、ここまでの状況に追い込まれてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村さんが、バブル崩壊後に「高度経済成長の再来」を目指した政府が犯してきた大きな過ちを解説。さらに国から優遇を受け業績を上げ続ける大企業が果たすべき責任を指摘するとともに、目先の利益だけを追い求めた先に彼らを待つ明るくない未来予測を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高度成長期と今の日本はどこが違うのか?

国民の生活など二の次。大企業を優先する経済政策で滅びゆく日本

前回までトヨタが税制などで優遇されてきた経緯を見てきましたが、なぜここまでトヨタが優遇されなくてはならないのか、という疑問を持たれた方も多いはずです。

「政治献金」も確かに大きな理由ではあるでしょう。

が、もう一つ大きな理由があります。

それは「経済政策」です。

つまり、経済政策として、トヨタなどの大企業が優遇されてきたのです。

バブル崩壊以降、日本の政治家や経済官僚たちが目指してきた目標というのは、「高度経済成長の再来」でした。そして高度経済成長するために、企業業績を上げることを最優先にしてきたのです。

しかし、バブル崩壊以降の経済政策は、実は高度経済成長の時の経済政策とは真逆とさえいえるものだったのです。

というのも、高度経済成長を象徴する経済政策「所得倍増計画」は、「国民の所得増」を第一の目的とするものでした。

そして、実際に官民が一体となって、「国民の所得を増やす」という目的に向かって邁進したのです。

現代日本のように、「企業業績を最優先」にしたものではなかったのです。

昭和35(1960)年に池田勇人首相によって発表された所得倍増計画は、今後、10年間で国民所得を26兆円に倍増させることを目標にしていました。

当初は、戦争に負けて大きなダメージを受けた貧しい日本が、そんな奇跡のような経済成長ができるわけはない、という批判もありました。

しかし、そういう懸念をよそに、その後の日本経済は予想以上に成長し、国民所得は7年で倍増に達したのです。

戦後から昭和30年代前半まで日本社会というのは、戦後の民主化による市民運動、労働運動がもっとも激しいときです。

国民世論やマスコミも、「企業や資本家」を吊し上げるという方向に行きがちでした。

経済学者たちも「経済成長」よりも、いかにブルジョアジーから労働者にお金を回すか、ということばかりに気を取られていました。

そんな中で、政府は「現在の日本は、上から下まで皆、貧しいから、官民が協力して国民全体の所得をあげるように努力しよう」という政策を打ち出したのです。

企業側もそれに応えました。

高度成長期からバブル崩壊にかけて、日本の企業は、何よりも雇用を重んじ、常に賃金の上昇を意識していました。

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かつてはトヨタも持ち合わせていた「良識」

たとえばあのトヨタも、かつてはそうでした。

終戦後の10年間というのは、労働運動が非常に激しく、トヨタでも、1950年には、2か月に渡るストライキも決行されました。

が、1962年、トヨタの労働組合と経営側により「労使宣言」が採択され、トヨタの労使は「相互信頼を基盤とし、生産性の向上を通じて企業繁栄と労働条件の維持改善を図る」ということになったのです。

つまりは、トヨタの労働組合は、経営との協調路線を採ることになったのです。

これは、戦後の日本企業を象徴するようなものだといえます。

以降、トヨタの労働組合は、ストどころか、団体交渉さえ行なったことがなく、賃金、労働条件などすべての労働問題は、労使協議会で行われています。

これは雇用や賃金をトヨタがしっかり守る姿勢を見せたので、従業員側も歩み寄ったということです。

このトヨタの労使協調路線は、高度成長期の日本の労使関係のモデルにもなったほどです。

こういう企業側の努力があって、日本の高度成長はもたらされたのです。

この当時の経済政策が「所得」をターゲットにしたのは、確かに的を射ていました。

国民の収入が増えれば、消費も増えます。

消費の拡大がまた経済成長につながるのです。

つまり、まず所得を増やし、それを牽引車にして、経済を成長させる、という考え方です。

「トリクルダウン」が崩してしまった好循環

一方、バブル崩壊以降の日本の経済政策は、「トリクルダウン」を目指したものであり、「所得倍増計画」の真逆を行っていました。

トリクルダウンとは、「富める者がより富めば貧しいものも富むようになる」という理論です。

大企業や富裕層が潤えばそれは社会全体に波及する、つまり山の頂に水を流せば、やがてふもとまで流れていくという発想です。

このメルマガでも何度も指摘した、大企業や富裕層ばかりを優遇する政策は、この考え方によるものです。

この理論は、ソ連、東ヨーロッパの共産主義国が崩壊したころから、幅を利かせるようになったものです。

1990年代、共産主義国が次々と倒れるのを見て「金持ちを優遇することこそが、経済を成長させる唯一の道」という極端な方向に振れてしまったのです。

しかし、そもそも、共産主義というのは、資本主義がおざなりにしてきた貧困問題が発端となって、広まったものです。

そして共産主義が崩壊したのは、皆が平等だったからではなく、むしろ「隠れた特権階級」が生じたことが要因なのです。

そこを丁寧に分析することなく、「共産主義がダメだったんだから富裕主義(トリクルダウン)を取ればいい」というような雑な方法を採ってしまったのです。

このトリクルダウンの理論により、バブル崩壊後の日本では、大企業や富裕層が優遇されるようになりました。

「企業の業績を上げることで、経済をよくしていこう」

「富裕層が潤うことで国全体を豊かにしよう」

という経済思想になったのです。

そのため政府は、派遣社員の範囲を広げたり、企業が残業手当をあまり払わないでいいような法改正をたびたび行なったのです。

企業は業績向上のために平気でリストラを行うようになりましたが、政府はそれを黙認しました。

また企業は業績が向上しても、社員の給料を上げないようになりました。

それは、高度成長期以来の日本の雇用政策を大きく変革するものでした。

「正規雇用を大事にし、出来る限り賃上げを行なう」という日本型雇用を崩してしまったのです。

「トリクルダウン」は、国民の所得が増えれば消費も増え景気もよくなるという好循環を崩してしまったのです。

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「富裕層優遇政策」が招いた消費低迷とデフレ不況

 

バブル期以降、日本の経済政策は「トリクルダウン」を採るようになりました。

トリクルダウンというのは、大企業や富裕層が潤えば、そのうち社会全体が潤うようになる、という経済思想です。

この「トリクルダウン」の思想により、国は富裕層にも大きな優遇制度を敷いたのです。

まず所得税を中心に富裕層の大減税を行ないました。

所得が1億円の人の場合、1980年では所得税率は75%でした。

しかし86年には70%に、87年には60%に、89年には50%に、そして現在は45%まで下げられたのです。

また住民税の税率も、高額所得者は18%だったものが、今は10%となっています。

かつて富裕層の所得税率が75%だったというと、「それは酷い」と思う人も多いかもしれません。

が、所得税率75%といっても、いろんな控除などがありますので、相当稼いでいる人でも実質的に50%以上になることはあまりありませんでした。

それに、日本は、富裕層に高い所得税率を課すことで、高度成長を成し遂げ、一億総中流と言われる国民全体が豊かな社会をつくりあげていたのです。

が、日本はバブル崩壊前後に、「富裕層に高い税を課す」ということをやめてしまったのです。

その結果、サラリーマンの給与が下がり続け、ワーキングプアが激増しているなかで、億万長者の資産ばかりが膨張するということになったのです。

このトリクルダウン政策が採られるようになってから、日本経済は長い低迷期に入っているのです。

少し分析すれば富裕層が優遇されることは、間違いなく経済を停滞させることがわかるはずです。

なぜなら、富裕層は、もともと十分な消費生活をしているのだから、それ以上、収入が増えてもなかなか消費には回らず、貯蓄や金融商品に回ってしまいます。

一方、中間層以下は収入が減れば、たちまち消費が減ります。消費が減れば物が売れないので、物の値段は下がりデフレとなるのです。

これは、少し考えれば、誰にでもわかる理屈です。

そして、理屈だけじゃなく、現実もその通りになっています。

日本が富裕層優遇政策を採り始めたころから、消費は低迷し、デフレ不況となりました。

これは、「富裕層にお金を回しても消費には行かず貯蓄が増えるだけ」という理屈がそのまま現実になっているのです。

富裕層の負担を減らし中間層以下の負担を増やす
        ↓
富裕層の貯蓄は増えるが国全体の消費は減る
        ↓
企業は売上を維持するため価格を下げる
        ↓
   デフレ、不景気になる

昨今になって、政治家もようやくそのことに気付き、安倍元首相くらいから「賃金アップ」を財界に働きかけたりしています。

が、それ以前の富裕層優遇措置が効きすぎており、ちょっとやそっと賃金アップをしたくらいでは、とてもデフレや格差社会は解消しないのです。

近年では生活保護受給者も激増し、貧困家庭も増え、まともに食事をとれない子供がかなりいます。

しかも信じられない事に、現在、日本の大学生の約半分は、有利子の奨学金を使っているのです。

奨学金とは名ばかりで、要は借金です。

つまり、日本の大学生の半分は、借金をしなければ大学に通えない状態なのです。

少子化で少なくなったはずの子供の学業さえ、満足に支えられない。にもかかわらず、億万長者はますます富を増やしている。

「トリクルダウン政策」がそういう日本を作り出したのです。

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「社会的責任」を果たさぬ大企業を待つ暗い未来

政治家や財界の人たち、特にトヨタの首脳陣は、よく考えてほしいものです。

近年の日本は、「国際競争力」を旗印にし、大企業の業績を優先させる経済政策を行なってきました。

その結果、低所得者が増え、子供の数は減り、その少ない子供の教育さえままならない社会をつくってしまったのです。

しかし、それは少し長い目で見れば「国際競争力」を大きく損なっているのです。

戦後の日本の繁栄は、勤勉で優秀な勤労者が作り上げてきたものです。

今の日本には、勤勉で優秀な勤労者を育てる土壌が急激に失われています。

従業員の待遇を削って企業の業績を上げるのは簡単です。

安い賃金で、メチャクチャにコキ使えば、企業の経営効率が上がるのは当たり前です。

でも、それでは、企業は社会的責任を果たしていません。

「企業は株主のもの、だから株主が儲かるようにするべきで、社員のことは考えなくていい」などという経済評論家などもいますが、それは世間知らずというものです。

企業が事業を成功させることは、その企業だけの力では絶対にできない事です。

企業というのは、国の資源を使っているのです。

日本の企業というものは「産業のインフラ」「治安のいい社会」「高い教育を受けた人材」などがあって、世界で活躍できているのです。

これらの“国の資源”は、国が企業のために整えたものではありません。

国民のために整えたものです。

国民生活が豊かになるために、国はそういう環境を整えたはずなのです。

企業は、その国民の資源を使わせてもらっているのだから、相応の対価を支払うべきです。

また企業が、社会的な責任を果たさなければ、いずれは企業自体に報いがきます。

企業が賃金も雇用も増やさず、儲けたお金を社会にまったく還元しなかったら、どうなるでしょうか?

派遣社員ばかりが増え、若い人が家庭を持つことさえ覚束なくなったらどうなるでしょうか?

若い人の収入が減り、子供が減っていく社会というのは、企業にとっては顧客が減っていく社会でもあります。

また人材が枯渇していく社会でもあります。

そういう社会になってしまえば、やがて企業も枯れていくのです。

このメルマガでも触れましたが、2021年にはトヨタのカムリの開発者責任者が、中国の自動車メーカー「広州汽車集団」に引き抜かれました。

カムリは、アメリカでもっとも売れていた車であり、トヨタの海外戦略のもっとも重要と言える車でした。

カムリの開発責任者に限らず、バブル崩壊以降、日本の技術者たちは、中国や韓国などの企業にガンガン引き抜かれています。

昨今の日本企業の苦戦は、人材の引き抜きが大きな要因ともなっているのです。

【関連】トヨタという“日本の病巣”を国税OBが告発! 株価以外すべて破壊「日本人の給料を下げ続けたトヨタ」失われた30年の真実

企業は、社員が安心して暮らしていけるだけの雇用を守り賃金を払う。

それが真に永続的に企業が発展していくために必要不可欠なことです。

バブル崩壊以降の日本企業は、この最低限度必要なことをしてきませんでした。

日本企業は今すぐにでも、これをやらなければなりません。

今、何も手を打たなければ、少子高齢化や低所得者層拡大は、どんどん進んでいきます。

今のように、目先の業績だけを追い求めていると、じり貧は避けられないのです。

そして、その先に行きつくのは、少子高齢化で身動きが出来なくなった暗澹たる日本社会です。

これ以上、少子高齢化が進めば、日本は活力のない老人国家になってしまいます。

そうなればトヨタなどの大企業も、破滅するか、外国人に買い取られるしかなくなるのです。

(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2024年7月16日、8月1日号より一部抜粋。全文はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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