自らが一発の銃弾を撃たずとも火の海になる欧州各国
来年1月に退任するバイデン大統領がレガシーを追い求めるのはまだ理解できますが、今後4年から8年間アメリカの大統領として諸問題にあたらなくてはならないハリス氏やトランプ氏がどの程度、ゼレンスキー大統領の狙いに乗ってきてくれるかは未知数です。
しかし、両者に協議する形を取ることで、ウクライナ支援を大統領選挙の論点に位置づけさせ、いかなる後ろ向きな発言や態度もマイナスになるような形に追いやることで、自ずからアメリカを中長期的にロシアとの戦いに引きずり込むことに繋がります。
これを意図的に仕組んでいるのであれば、ゼレンスキー大統領はかなりの曲者だと感じます。実際に意図したように進むかは未知数ですが。
ただ一つはっきりすることは、イスラエルの博打にも思える多方面での戦争の実施と、ウクライナがロシアを刺激し、いわゆるレッドライン越えを行う行動に出たことで、どちらの戦争も長引き、しばらくは終わりのきっかけさえ見つけられない状況が生まれてくることです。
それらの戦争がほかの戦いの火種を起こし、すべての不安定要素が結びついて、戦火が飛び火しだすと、これが世界戦争に発展していくシナリオに変わるのですが、その場合、直接的な戦争当事者でもないのに大きなダメージを被るのは欧州各国でしょう。
中東・地中海地域での緊張はEUの南端の不安定要素をさらに高めることに繋がりますし、ウクライナフロントでの戦争の激化は、ロシア(とベラルーシ)からの直接的な攻撃の可能性に欧州各国が晒され、自らが一発の銃弾も打たない状態でも、攻撃対象として火の海になる危険性が高まります。
これまで2度の世界戦争は欧州から始まり、それが世界各地の紛争の火種を起こし、それらの火が繋がることで規模が大きくなり、長期間にわたる地獄の戦いに繋がってきました。
それを恐れてウクライナに様子見に行ったのがインドのモディ首相ですが、その際になぜがゼレンスキー大統領から頭ごなしにいろいろと言われたことを受けて、インドは正式にウクライナを見捨て、火の粉がインドにかかってこないような状況を作ることに勤しむことにしたようです。
中国は調停や仲介に関心はあるものの、経済的な利益の拡大を除けば、他の地域の情勢に直接に関わることを好まない傾向があり、安全保障上の関心はアジア太平洋地域に絞っているため、今後もウクライナ問題や中東の問題には首を突っ込まず、あえて距離を保つ戦略を貫くものと思われます。
残念ながら欧州は距離を保つluxuryは許されず、戦火の広がりに直に巻き込まれることになります。そしてアメリカの次の大統領が欧州の同盟国重視の姿勢を取る場合には、アメリカも自ずから自国から遠いところで行われる戦いに巻き込まれ、多大な犠牲を強いられることになります。
そのような中、日本はどのような立ち位置を選び、どのような行動を取るべきなのでしょうか?
新しい自民党の総裁、それはすなわち次の内閣総理大臣を選ぶ“戦い”が近く開催されますが、新しいリーダーはこのような非常にfragileな国際情勢の中でどのように日本をリードしていくつもりなのでしょうか。
期待しながら見つめつつ、調停グループとしては急に必要とされるときに備えて、しっかりとスタンバイしておきたいと思います。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年8月30号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録の上、8月分のバックナンバーをお求め下さい下さい)
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