ロシア軍の虚を突く形で突如越境攻撃を仕掛けたウクライナ。ゼレンスキー大統領が戦果を強調する一方でプーチン大統領は攻撃の失敗を主張していますが、ロシアのウクライナへの攻撃をレベルアップさせてしまったことは間違いのない事実のようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、プーチン氏がベラルーシのルカシェンコ大統領とともに仕掛けた罠とも取れる大きな動きを紹介。さらにベラルーシの参戦がウクライナ戦争の危険度を格段に上げてしまう理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:終わりが見えない大戦争の足音‐欧州を悩ませる3度目の世界戦争の影
ウクライナに迫るワグネルの残党。3度目の世界大戦も欧州が起点となるのか
8月6日にウクライナが事前の警告も相談もなく、ロシアのクルスク州に越境攻撃したことで、これまで停滞していたロシア・ウクライナ戦争にも動きが生まれました。
これまで約3週間、ウクライナ軍はロシア領内に歩を進め、100近い集落を陥落し、1,000平方キロメートル超を掌握したという情報が流れ、最近ではNATO加盟国から供与されたF16戦闘機がロシアからのミサイルを迎撃したらしいという“明るい”ニュースが流れていますが、この越境攻撃はロシアからの苛烈な報復攻撃を誘発し、ウクライナ全土が今、ロシアのミサイル攻撃の餌食になっています。
この“快進撃”の裏では、ロシア軍がドネツク州やドンバスなどでの勢力拡大が進んでおり、それがウクライナ軍の補給路を断つことにも繋がっているという、苦しい現状もあります。
精鋭部隊をクルスク州への進撃に振り分けたことで、ウクライナ国内の守りが手薄になり、ドローンや自前のミサイルなどの飛び道具に頼る割合が多くなっているのも、報じられない現実のようです。
ウクライナがクルスク州を、ロシアを停戦協議の場に引きずり出し、協議を少しでも優位に進めるための材料として利用する狙いがあるのであれば、これまで以上に欧米諸国からの軍事支援と、供与された武器をロシアに対する攻撃に用いることへの許可が必要になりますが、欧州各国は二の足を踏んでいる状況です。
それは今回のクルスク州へのウクライナ軍の越境攻撃に際し、ロシア軍の抵抗が思いのほか少ないことに違和感を覚えていることがあると考えます。
今週、調停グループの協議において戦況の分析結果が示されましたが、その中で「今回の越境攻撃は、いろいろと腑に落ちない点が多い。その一つがロシア軍の抵抗の低さであり、意外なほど、簡単に前線から撤退しているのは、もしかしたらロシアはわざとウクライナに攻撃させ、ウクライナに対する苛烈な攻撃を実施するための口実を作り、同時にこの戦争を新たなフェーズに進めようとしているのではないかと疑っている。もしそうだとしたら、ウクライナは今後、非常に激しいロシアからの攻撃に晒され、その存在を賭するような事態に陥るかもしれない」という内容が非常に気になっています。
「第2次世界大戦以降初めて、ロシアの本土が外国勢力に侵略されたというイメージを作ることで、過去にナチスドイツに蹂躙された記憶をよみがえらせ、その怒りと恐れを対ウクライナ戦争における決定的なend gameに向けての世論形成に用いようとしているのではないか」という分析結果もとても気になります。
実際にクルスク州への侵略を受けた後、メディアが伝えるプーチン大統領への信頼の低下という現象とは逆に、プーチン政権がウクライナへの攻撃を強め、決定的な結果を作り出すべきだという声が国内で高まっています。特に直接的な攻撃に晒されていないモスクワを含む大都市でその現象が顕著になってきているようです。
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