ウクライナがNATOにとって危険な隣国に変貌する可能性も
この2年半の戦いでロシア側の犠牲者は50万人ほどになりますが、先述の通り、まだ余力はあるため、ロシアの戦力が尽きる前にウクライナの戦線が崩壊する可能性が指摘されています。
その背後には、これまでのロシアによる攻撃で送電網の多くが破壊されており、恐らく今年の冬には一日16時間ほどの停電を強いられるような状況が待っているとされ、それが自国を守り抜くという意思を挫き始めていると言われています。
そのような状況下でゼレンスキー大統領がこれまで通りに強気の姿勢を崩さず、かつ2014年以前の状況に戻すという非常に困難な目標を掲げ続けて戦いに臨むのであれば、すでに支援疲れが高まっている欧州はウクライナと距離を置く可能性が出てきます。
もし今後もロシアの企てに抵抗し、戦い続けることを望むのであれば、欧米からの支援の継続と拡大は不可欠であり、そのためにはまず、強気な主張ではなく、一旦、劣勢を認め、現実を受け入れたうえで、厳しい状況に直面して、欧米諸国にロシアに抗するための戦力と、ウクライナの安全保障の確保を依頼しなおしたうえで、ロシアとの対峙を、より強固なNATO諸国によるサポートを後ろ盾に行わないといけないと考えます。
でも、もし今の状況下で、NATO諸国が次第にウクライナを見捨てるようなことになれば、ウクライナは確実にロシア陣営に席捲され、ウクライナ国家が機能不全に陥り、そしてウクライナ自体がNATOにとって危険な隣国に変貌する可能性が高まります。
「ウクライナはやっぱり見捨てられ、欧米に裏切られたのだ」
もしそのような思いをウクライナ人、特に今、ロシアとの戦闘に駆り出されている戦闘員たちが抱くようなことがあれば、プーチン大統領は確実に彼ら・彼女たちを反欧米の勇猛な戦力に変えてしまい、NATOの加盟国に対する挑戦を後押しすることになります。
これは私の妄想ではなく、プーチン大統領は2014年にドンバスで同じことを行い、ロシア語を話すドンバスの住民に対して「あなた方はウクライナ人と言われながら、ウクライナ政府からもウクライナ人からも虐げられている」というマインドセットを植え付け、結果、同胞ウクライナ人に対して戦いを仕掛ける親ロシアのパルチザンに変えた前例があることによる懸念です。
もし2014年の失敗とは比べ物にならない“ウクライナを反NATOの戦いの最前線にする”というプーチン大統領の狙いが現実になってしまったら、ウクライナの存続どころか、東欧の防衛さえままならなくなる恐れが一気に高まります。
ウクライナを支援し、ロシアの企てを挫くのであれば、NATO諸国は、ウクライナの“優勢”という虚構を世界に訴えかけて自らの選択が正しいことを証明するのではなく、まずウクライナに劣勢を認めさせ、ウクライナの崩壊がNATOおよび下手するとEUの崩壊に繋がりかねないことを欧米市民に訴えかけたうえで、対ウクライナ支援を再度本格化し、覚悟を見せて躊躇せずに、ロシアをロシア領内に押し戻し、ロシアを封じ込めるためのシステムを、抜け穴なく構築することを急がなくてはなりません。
今のように「どれだけの武器をいつ提供するかは、自分たちが慎重に考える」という後手後手の対応ではなく、もし本当にゼレンスキー大統領を民主主義世界の味方だとみなすのであれば、まずウクライナをロシアの恐怖から解放するために、十分かつ圧倒的な支援を行う必要があります。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









