関税をめぐる中国と欧米先進国の対立には不可解な点も多く見つかる。
例えば、反ダンピング調査が始まる過程だ。本来であれば、真っ先に声を上げるのは被害を受けたEU域内の業界団体だ。しかし、そうした声はEU域内の自動車産業界からほとんど聞こえてこないのだ。
今回の懲罰関税も、安価な中国製EVの被害が明らかであれば、業界団体から歓迎されるはずだが、そうした声はまばらだ。EU最大の自動車産業を抱えるドイツの業界団体はかえってドイツ政府に反対票を投じるように要請していたほどだ。
ドイツの自動車連盟のヒルデガルド・ミュラー会長は、ドイツのテレビ局ZDFのニュース番組のインタビューのなかで、「ドイツの雇用の70%を担っているのが自動車関連産業。だからわれわれはいかなる(中国との)貿易摩擦も回避しなければならない」と懸念を表明している。
つまり政治先行の関税の上乗せだったのだが、こうした政経のネジレは、かつての日本に始まり、その後トランプ政権下のアメリカで顕著になったものと同質だ。
中国と向き合う国が必ず一度は通る道なのかもしれないが、それにしても産業界が望まない「保護」が果たして本当に必要なのかという疑問は拭えない。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、採決に先立つ2日、外国との競争を拒絶して、貿易パートナーのコミュニティを縮小するのは誤りだとの考えを示し、「EUは自らを害するような反応をせず、中国とEVに関する協議を継続すべき」と釘を刺した。
同じくドイツの財務相も「中国との貿易戦争はヨーロッパの自動車産業にとってデメリットの方が大きい」とEU委員会の動きをけん制していた。
結局、採決ではドイツの働きかけも虚しく賛成多数で可決、その内訳は10カ国が賛成したのに対して、反対は5カ国と、一見すると圧勝だった。
当初から強く支持していたフランス、ギリシャ、イタリア、ポーランドの4カ国の人口がEU域内の39%に達するため、採決が否決される可能性はそもそもなかったとされるが、一方でスウェーデンをはじめ12カ国が棄権したことを考えるとEU内でも議論が分かれていたことを感じさせた。
それだけ難しい問題なのだ。
事実、反対票を投じたドイツの政権内でも意見は割れていた。ドイツ緑の党だけは懲罰関税に賛成していたからだ。
そもそも欧州の自動車メーカーが懲罰関税に反対したのは中国の報復を恐れたという理由だけではない。この措置がーーー(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年10月6日号より一部抜粋。この続きにご興味をお持ちの方は、この機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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