プーチンから「お前は馬鹿か」と嘲笑されること必至。石破氏「アジア版NATO」構想で露呈したウクライナ問題の歴史的経緯を知らぬ新首相

 

プーチンに「お前、馬鹿か」と嘲笑されること必至の石破氏

(5)新政権は、東部及び南部のロシア語話者が8割以上を占める地域でロシア語を「地域公用語」とすることを認める法律を廃止した。これに対しドンバス地方のロシア系住民はウクライナ語による教育を段階的に廃止する措置を採るなど、対立が深まった。

そうした中で、キーフ政府とプーチンとの間で、ドンバス地方の住民にロシア語使用を含め一定の自治権を保証するためウクライナ憲法を改正し新たな法律を制定するという方向で合意がなされ、それを仏独首脳が言わば立会人として見届けるという「ミンスク合意」が成立したが、キーフ政府とドンバス住民の間のテロ合戦が激化し、同合意は吹き飛んでしまった。

その意味で、ウクライナ戦争の本質はあくまで東部ロシア系住民の自治権をめぐる内戦であり、それにロシアが軍事介入したのは確かに外形的には「侵略」に違いないものの、仮にキーフが「勝利」してロシア軍を撃退したとしても、そこでキーフが直面するのは、10年前と全く同じ政治問題――東部ロシア系住民の自治権を憲法的・法律的にどう保証するのかということでしかない……。

このような、ウクライナ問題の歴史的経緯について石破は恐らく無知で、「ウクライナがNATOに入っていればロシアは侵略しなかった」などというトンチンカンなことを口にしている。こんな認識で日露首脳会談に臨めばプーチンに「お前、馬鹿か」と嘲笑されるに決まっている。

もう一点、そのような(誤った)ウクライナ認識を踏まえて、だから日本もアジア版NATOの下に入れば米国の「集団的自衛権」で守られるに違いないと思っているらしいが、甘い。条約上で集団的自衛権が明記されていてもそれは「自動参戦義務」の規定ではなく、米国はその時の世界情勢や自国にとっての利害得失を判断して必要なら戦争に介入できる「選択的参戦権利」を持つというだけである。つまり、日本有事は自動的に米国有事ではない。

石破氏が犯した51条の完全な誤読

第二に、〔B〕の部分は、ウクライナはNATO非加盟だからNATOの集団的自衛権発動の対象とはならないが、国連憲章51条には国連としての集団的自衛権規定があるので、それに基づいて米国がウクライナに参戦してもよかったはずだが、米国はそうしなかったと言っている。が、これは51条の完全な誤読である。

石破に限らず、この51条を以て国連憲章が集団的自衛権を積極的に認めているかに論じる者が時折出てくるが、それは間違いである。国連の根本趣旨は、言うまでもなく、2つの世界大戦への痛切な反省に立って、すべての国際紛争は平和的に解決することを大原則とし、そのため個別国家による武力の行使及び武力による威嚇を禁止しようとするところにあった。しかしこの憲章の制定過程で、

  1. 53条に地域的安全保障体制が軍事的強制行動に出る場合には国連安保理事会の許可が必要であるとの規定が盛り込まれ、
  2. しかも常任安保理国に拒否権が与えられることになったため、

その安保理の許可に時間がかかったり、許可が出ない場合が増えるのではないかとの懸念が広がり、特に「米州相互援助条約」の締結を準備していた米州諸国から強い異論が突き出された。

そこで国連は、従来からごく自然に認められてきた「自衛権」について改めて議論して整理し、自衛権には個々の国家による個別自衛権と地域条約機構による集団的自衛権の2つがあり、そのいずれについても「安保理が必要な措置をとるまでの間〔に限って〕、行使することを害するものではない〔けれども〕その行使に当たってとった措置は直ちに安保理に報告しなければならない」というふうに限定条件付きでそれを認めることとし、憲章51条に盛り込んだのである。

つまり、51条はあくまでも、個別的にせよ集団的にせよ自衛権の行使は限定的・制約的に取り扱うという趣旨なのである。

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