プーチンから「お前は馬鹿か」と嘲笑されること必至。石破氏「アジア版NATO」構想で露呈したウクライナ問題の歴史的経緯を知らぬ新首相

 

国際法や国際関係論のゼミ卒論であれば落第確実

だから、大沼保昭『国際法』(ちくま新書、18年刊)はじめどんな国際法の概説書にも述べられているように、

▼「……害されるものではない」という規定の仕方から示唆されるように、自衛権は国連の武力行使禁止原則の例外として消極的に認められているにすぎない。国連はあくまでも武力行使・威嚇の一般的禁止と違反者への制裁を中核とする体制であって、自衛権は『安保理が必要な措置をとるまでの間』に限って認められるにとどまる(同書P.348~)。

▼しかも、ここで個別的自衛権の自明性・本来性をそのまま集団的自衛権にまで及ぼす構文になっているのは問題。……自衛権は国連の集団安全保障体制の例外であり、まして集団的自衛権は『鬼子』である(P.353)。

ウクライナ戦争の場合に戻ると、ウクライナがNATOに非加盟であるから米国がNATOの集団的自衛権を根拠としてウクライナで戦争をすることが出来ないというのはその通りである。ところが石破は、ウクライナはNATO加盟国でなくとも国連加盟国であるから米国は51条に基づいて集団的自衛権を発動できる(はずなのにそうしなかった)と捉えている。こんな馬鹿げた51条解釈は聞いたことがない。

51条は、繰り返すが、国連安保理が動き出せない間に限って、地域的軍事同盟を結んでいる国々がその同盟の規定する集団的自衛権に従って事態に緊急対処することを「妨げない」と言っているのであり、ウクライナとの間に同盟条約関係がなく、従って集団的自衛権発動の法的根拠を持たない米国が、国連の名の下にウクライナで戦争することなど出来る訳がない。これが許されるなら、米国に限らずどの国連加盟国も、ウクライナに限らずすべての国連加盟国に対して「集団的自衛権」を発動して軍隊を派遣できることになってしまう。

では安保理が動き出すというはどういうことか。それは憲章第7章「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」の39~50条に従って「国連軍」として防止ないし強制措置にとることであって、米国が国連の合意を抜きに勝手に軍事行動をとっていいとは、憲章のどこを読んでも書いてない。

このように、石破の「集団的自衛権」理解は、二重三重に間違っていて、これが国際法か国際関係論のゼミ卒論であれば彼は落第確実である。

ウソでしかない「今のウクライナは明日の台湾」というキャッチフレーズ

第三に、〔C〕で石破は、今のウクライナは明日のアジアであって、なぜならロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えるというアナロジーが成り立つからだという考えを示している。

ロシアがウクライナに侵略したからと言って、どうして中国が台湾に侵攻しようと思い立つのか。ましてや、上述のように、米国の1989年以来33年がかりで積み上げてきた挑発にプーチンがとうとう我慢しきれずに乗ってしまった挙句、今の泥沼状態に嵌っているのを見て、励まされて?じゃあ俺もやってみようかな?……とどうして考えるのか。

実際は真逆で、21年春にデービッドソン=米インド太平洋軍司令官が米議会で「6年以内に中国が台湾に侵攻する」と言い出して以来、主に米日両国内で大いに盛り上がってきた「台湾有事切迫」論に対し、習近平は周囲に「こんな挑発に乗る訳がないじゃないか」と語っていると伝えられる。当たり前で、米軍人が予算増額欲しさに根拠のない脅威論をばら撒いたくらいのことで、中国の指導者が14億の民の命と幸せをギャンブルに賭けることなどあり得ない。

しかも、ウクライナ問題と台湾問題は性格が違う。ウクライナ問題の本質は、上述のように、ウクライナ国内のロシア系住民の自治権をめぐる内戦であり、それに国外からロシアが介入したのは侵略だと非難されている。

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