露骨に中国を挑発する同盟に参加する国はあるのか
石破が〔C〕で、(「ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えれば」という、今述べたように間違ったアナロジーの上に立っていることは措くとして)「アジアにNATOのような集団的自衛体制が存在しないため〔中台〕戦争が勃発しやすい状態にあり、中国を西側同盟国が抑止するにはアジア版NATOの創設が不可欠」と言っているのは、つまり、アジア版NATOは中国を「仮想敵」とする西側の敵対的軍事同盟であるという考え方であることを示す。
しかも、この西側同盟国の台湾軍事支援を強力なものとするには、台湾自身がアジア版NATOに加盟して米日はじめ他の国々との間に集団的自衛権の相互行使を条約的に約束しておかなければならない。中国を仮想敵とする軍事同盟に台湾を入れるとすると、当然、その加盟国は皆、中国とは国交断絶しなければならないが、そんな合意をどうやって形成させることが出来るのか。
いや、だから台湾を加盟させるなんて無茶なことはしないで、米日はじめ東南アジア、インド、豪州などが取り囲んで台湾を見守る体勢をつくればそれが抑止力強化になるんだと言うのかもしれない。しかしそれでも露骨な挑発として中国を刺激することには変わりなく、一体どこの国が好んでその同盟に参加するのだろうか。米国とても、今更そのような巨大なゴシック建築のような冷戦型の建造物をアジアに構築したいとは思わないのではないか。
論理的には支離滅裂で、何より対中国の外交・経済関係をどう立て直していくのかの戦略と完全に切り離されてそことの何の整合性もなしに語られるこのような勇ましいだけの安保構想を、世界はどう受け止めるのだろうか。
【蛇足】ハドソン研究所のホームページは、9月25日付、すなわち石破が総裁に選ばれる2日前に石破論文の英訳を掲げその下に日本語版を載せているが、この日本語版の日本語はいささかぎこちなく、ごく一部には意味不明のところもあるので、以下の引用では私なりの判断で最小限の修正を加えてある。ということは、おそらくこの日本語版は石破が書いたオリジナルではなく、上の英語版が先にあってそれをたぶん日本人ではない人が和訳したものではないかと推測させる。石破自身が書いた原稿はどこにあるのか?
ちなみに、第2次安倍内閣の発足時にも似たようなことがあって、同内閣が発足した翌日の2012年12月27日に、国際的な情報・論説ウェブサイト「プロジェクト・シンジケート」上に「アジアの民主主義国の安全保障ダイヤモンド〔四角形=米日豪印のQUADの意味〕」と題した英文の論文を寄稿した。なぜか和文が発表されることがなかったため、多くの人はしばらくの間、この存在に気がつかなかったが、ややもしてIWJ の岩上安身などが発見して騒ぎ立て、ようやく知られるようになった。
● 【岩上安身のニュースのトリセツ】
「対中国脅威論」の荒唐無稽――AIIBにより国際的孤立を深める日本~ 安倍総理による論文「セキュリティ・ダイヤモンド構想」全文翻訳掲載 2015.7.4
ここで安倍は、後の「インド太平洋戦略」という名の中国包囲網形成の考え方を述べていて、これがその後の彼の外交政策の基調となるのだが、ある関係者が安倍事務所に日本語原稿の提供を願い出たところ、どうもそのようなものは存在せず、では英文を翻訳して雑誌に掲載したいと申し出たがそれも不許可となった。
安倍がいきなり英語で論文を書ける訳がないので、この論文は最初から英語で書かれて安倍に与えられたものだったのかもしれない。そこは今も謎のままである。従属国ではこんなことは起こって当たり前ではあるけれども、それにしても……(安倍論文の全訳は本誌No.917=18年12月3日号「安倍首相の『インド太平洋』安全保障ダイヤモンド」)。
【関連】安倍首相最大の外交成果「インド太平洋構想」の甚だしい時代錯誤
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年10月7日号より一部抜粋・文中敬称略。添付資料「石破のハドソン研究所への寄稿論文全文」を含む続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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