プーチンから「お前は馬鹿か」と嘲笑されること必至。石破氏「アジア版NATO」構想で露呈したウクライナ問題の歴史的経緯を知らぬ新首相

 

たった1年半で誤った思考に嵌まり込んでしまった石破氏

さて台湾は、中国の主張ではもちろんのこと、米国や日本も国交正常化のための条約上で承認している通り(そしてかつて蒋介石時代までの台湾もそう言っていたように)、中国の一部であり「中国は1つ」である。従って、仮に中国と台湾の間で約60年ぶりに武力紛争が再発したとしてもそれはあくまで内戦であり、それに米国が軍事力を以て介入すれば外からの「侵略」に当たり、ウクライナ戦争におけるロシアと同様の非難を浴びるべき立場となる。

また日本の自衛隊が、拡大解釈された日米安保条約の下、米軍に対する「集団的自衛権」を発動して共に戦闘に加われば、それは他国に対する侵略となる。だから「台湾有事は日本有事」というのは安倍晋三と麻生太郎の幼稚な超短絡思考から出たキャッチフレーズで、本当は、

  1. まず何よりも台湾有事を起こさないようにするために何が出来るのか。
  2. 起きてしまったとして、それを米国が米台湾関係法に基づく判断として「台湾有事は米国有事」として軍事的に対応するかどうかを決める。台湾有事は自動的に米国有事となるのではない。
  3. それを見届けた上で、日本は新安保法制に該当する「米国有事は日本有事」の事態なのかどうかを判断する。米国が参戦したからと言って必ず日本が従う訳ではない、

という複雑極まりない、国家の生死を賭けた決断となる。

従って、アナロジーが成り立つのは

  1. キーフ政府と北京政府との間、
  2. ドンパス地方のロシア系住民と台湾住民との間、
  3. ロシアと米国との間、そして付け加えれば
  4. へっぴり腰ながら支援しようとしているポーランドと日本との間

――においてであって、そこをミソもクソもごた混ぜにして「今のウクライナは明日のアジア」と言うのは、国際政治のド素人にしか出来ないことである。

付け加えると、この件に関して石破は、23年2月15日の衆院予算委員会で珍しく代表質問に立ち、岸田内閣の「戦後安全保障政策を大転換し、防衛費の対GDP比2%、5年間43兆円達成へ」という方針について質している。

そこでは「確かに安全保障環境は大きく変わり、ロシアのウクライナ侵攻という誰も予測できなかったことも起きているが、しかし、今日のウクライナは明日の台湾、台湾有事は日本有事というような思考を余り簡単にすべきものではないと私は認識している」と正しいことを述べていた。

なのに1年半後の現在、その思考に簡単に嵌まり込んでいるのはなぜなのか(石破質問の全文とそれへの批判的解説は本誌No.1149=23年2月20日号「石破茂が10年ぶりの与党質問で24分間の防衛論独演会」を参照)。

【関連】強烈な皮肉。石破茂が10年ぶりの国会質問で岸田首相に放った言葉

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