安倍首相最大の外交成果「インド太平洋構想」の甚だしい時代錯誤

takano20181205
 

先日のG20首脳会議の場で初めて行われた日米印の首脳会談でもその重要性が確認された、インド太平洋構想。総理に近い専門家によれば、「安倍首相の最大の外交的成果」とのことなのですが、これを識者はどう見るのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、「時代錯誤も甚だしい前世紀の遺物」とバッサリ切り捨てた上でその理由を記しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年12月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「戦略」を「構想」に置き換えても中国包囲網の本質は不変──安倍首相の「インド太平洋」安全保障ダイヤモンド

アルゼンチンで開催されたG20首脳会議の舞台を利用した“廊下鳶外交”の一環として、安倍晋三首相は米トランプ大統領、インドのモディ首相との初の日米印3カ国首脳会談を実現し、その場で「自由民主主義法の支配などの基本的価値観を共有する3国が協力して開かれたインド太平洋を作り上げていく」ことの重要性を強調した。

安倍首相に近い外交・安保専門家によると、この「インド太平洋」というコンセプトを生み出し、それを米国が学んで自国の安保戦略に取り入れ、そしていまインドやオーストラリアも受け入れつつあることこそ、安倍首相の最大の外交的成果だそうである。しかしそれにしてはこれを持ち出す安倍首相の姿勢は鮮やかではなく、以前は「インド太平洋戦略」と呼んでいたものを、この秋からは「インド太平洋構想」と呼ぶようにした。「戦略」というと軍事的なとげとげしいニュアンスになるので、それを和らげて中国を刺激しないようにするには構想のほうがいいということになったというのである。

これはいかにも安倍首相流の“言葉遊び”で、北方領土外交に当たって「2島+α」と言って2島だけでなく他の島もいずれ返って来そうな幻想を与えて国民を欺こうとしているのと同じ。口先だけで言い繕ってその場を切り抜けようという詐欺師の手法である。

構想と呼び変えようとどうしようと、「インド太平洋」戦略とは米国を盟主と仰ぎ日本が副官となって反共諸国を糾合し中国に軍事的に立ち向かおうという冷戦型の中国包囲網」の提唱以外の何物でもなく、時代錯誤も甚だしい前世紀の遺物である。

安倍首相の詐欺に引っかからないために、そもそも彼が最初にこれを言い出した原点にまで遡って、きちんと読み直す必要がある。

安倍首相は2012年12月27日に、国際的な情報・論説ウェブサイト「プロジェクト・シンジケート」上に「アジアの民主主義国の安全保障ダイヤモンド」と題した英文の論文を寄稿した。英文ウェブサイトにのみ載って、なぜか和文が発表されることがなかったため、多くの人はしばらくの間、この存在に気がつかなかったのだが、ややもしてIWJの岩上安見などが発見して騒ぎ立て、ようやく知らるようになった。

●【岩上安身のニュースのトリセツ】
「対中国脅威論」の荒唐無稽――AIIBにより国際的孤立を深める日本~安倍総理による論文「セキュリティ・ダイヤモンド構想」全文翻訳掲載 2015.7.4

それでよく見てみると、その12月27日という日付は第2次安倍内閣が発足した翌日であり、つまりこれは安倍首相が再び政権を担うについての外交政策の基調演説である。それを、なぜ、余り目立たない英文サイトでのみ発表して日本国民に向かって正々堂々と披露しなかったのかは謎だが、ともかくも全文を読んで頂きたい。

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