衆院選で票を減らし、少数与党となった石破政権はいつまでもつのか。キャスティングボートを握る国民民主・玉木氏。政権交代のタイミングを見極めたい立憲・野田氏。初の女性総理になる野心を捨ててはいない自民・高市氏。それぞれの駆け引きが続く間は奇妙なバランスで継続するだろうが、「それも、さほど長くは続かないのではないか」とみるのは元全国紙社会部記者の新 恭氏だ。各勢力の思惑で“今は”生かしてもらっている身の石破政権が、政界再編の大波に飲まれることは避けられそうにない。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:少数与党となった石破政権はいつまでもつのか
「自公大敗」と「石破続投」は想定内
総選挙の結果は概ね予想通りだったといえる。
自民党が劇的に票を減らし、公明党も常勝・大阪で惨敗、自公過半数割れが現実になった。その分、自民批判票が大量に流れ込んで立憲民主党の議席が急増、SNSで若者に人気急上昇中の国民民主党は議席4倍増の躍進を見せた。
勝敗ラインを「与党過半数」とした石破首相の責任を問う声も出ているが、石破首相に退陣する気はさらさらない。小泉進次郎選対委員長だけに責任を押しつけ、森山裕幹事長も続投することを決めた。
しかし、総選挙後30日以内に召集しなければならない特別国会の首相指名選挙で勝たないと、この政権は終わる。
国民民主党に頼るしかない自民党
自民党の獲得議席は191で、公明の24を合わせ与党で215議席。過半数の233に18議席及ばない。今後、萩生田光一氏や世耕弘成氏ら非公認、または離党して当選した4人を追加公認したうえ、保守系無所属の当選者に入党を働きかけたり、野党議員を「一本釣り」するなどの増員工作を進めるだろう。
だが、それで過半数に達するかというと、かなり難しい。
そこで自民は自公の連立枠組みを拡大して、日本維新の会や国民民主党に話を持ちかけるに違いない。だが、維新と自民、公明は大阪で熾烈な戦いを繰り広げたたばかりである。政権維持のためならなんでもする自民はともかく、維新の連立入りに対する公明の拒否感はきわめて強い。
可能性があるとすれば国民民主だ。今回、国民は公示前の7議席から28議席へと大きく飛躍した。「手取り増」など若者・現役世代向けの政策を訴えた効果もさることながら、東京都知事選で躍進した石丸伸二氏を彷彿とさせるフランクで率直な街頭演説が若者を中心に人気を集め、演説会場には聴衆がつめかけた。YouTube番組の評判も良く、とりわけ榛葉賀津也幹事長のユーモラスな受け答えが視聴者を引きつけている。
一方、維新は大阪において、公明党の候補者が出た選挙区を含めすべての小選挙区に候補者を立て、全勝したが、これは決して維新の躍進ということではなく、自民、公明の退潮ムードに助けられた側面が強い。全国政党への脱皮をめざして各地に候補者を立て、福岡11区、広島4区でそれぞれ勝利したものの、関西以外では苦戦を強いられ、公示前の44議席を下回った。
自民党から見れば、勢いづく国民民主に魅力を感じるに違いない。
国民民主も維新も自公の“泥船”はお断り
事実、10月31日にも自民の森山幹事長と国民の榛葉幹事長の政策協議を目的とした会談が予定されている。国民の玉木雄一郎代表を首相にして自民、公明、国民が連立を組むのではないかという憶測さえ呼んでいる。
だが、国民の玉木代表は「(自公)連立に入らない。良い政策があれば協力するだけ」と明確に語っている。連立政権に参加すると、政府の方針に縛られる。それよりも、キャスティング・ボートを握る立場から少数与党に迫り、党の独自政策を実現するほうが、政治的な存在価値が高まるという判断があるようだ。
維新の馬場代表にしても「政治とカネの問題がクリアにならない以上は、自公を信用するわけにはいかない」と連立政権入りに否定的だ。
それでも石破首相が国会情勢に楽観的な理由
維新も国民も、これまで自民との連携を模索してきたが、裏金問題などで自民の信用が地に堕ちたのを機に、距離を置きはじめた。
選挙期間中もさんざん自民を批判してきただけに、いまさら手のひらを返すようなことはできない。冷淡な態度を示さざるを得ないのが実情だ。
それでも、石破首相と森山幹事長が国会情勢に楽観的なのは、野党がバラバラであるからだ。
維新が憲法審査会の論議をめぐる対立などで立憲を厳しく批判してきたことは周知の通りだし、国民民主には憲法や安全保障などで意見が異なる立憲との連携に抵抗感がある。
では、肝心の立憲民主党はどう動くのか。首相指名選挙で野田代表の名を書いてほしいと各野党に要請するというが、国民の玉木代表はテレビの開票番組で、「野田」と書くかと問われて、それをきっぱり否定している。
首相指名選挙の1回目の投票で、自公両党は石破氏としても、野党が自分の党の代表に投票するなら、誰も過半数に届かず、決選投票にもつれこむ可能性がある。その場合、石破vs野田の構図になるわけだが、国民民主党は、決選投票でも玉木代表に投票する方針を決めている。
つまるところ、各野党の票を結集して野田政権を樹立する可能性はほとんどないといっていい。
かつて小沢一郎氏が 非自民・非共産の8党派を説得して細川連立政権をつくったように、剛腕政治家がいるなら話は別だが、野田代表にしても、小川淳也幹事長にしてもそれだけの力量はない。
今の小沢一郎氏は、野田代表をトップとする衆院選総合選挙対策本部の本部長代行というポストを与えられてはいたが、野田代表へのアドバイスていどの役割だし、動くにも限度があるだろう。
立憲・野田代表も、急いで政権交代はしたくない
そもそも現時点において、野田代表が本気で「政権交代」を狙っているとは考え難い。かりに野党が結束し非自民連立政権が実現するとして、うまくいくだろうか。
現在、参議院の勢力図は、自民・公明が140議席なのに対し、野党は、立憲・社民42議席、維新19議席、国民民主11議席、共産11議席……とかなり劣勢である。
これでは、たとえ非自民連立政権の予算や法案が衆議院を通過したとしても、参院で簡単に否決され、政策の実現に支障をきたすのは間違いない。
そうなると、またぞろ「悪夢の民主党」説のようなものが持ち出され、「やっぱり自民党しかない」ということになって、来夏の参議院選挙で自公が息を吹き返すこともありうるのではないか。
それよりは、今むりやり非自民の連立政権をつくろうとせず、参院選が終わるまで少数与党の石破政権を生きながらえさせるほうが立憲にとっては得策という考え方が成り立つかもしれない。
そもそも少数与党による政権運営はきわめて難しい。1994年4月に発足した羽田内閣がその実例だ。細川内閣の総辞職を受けて、同じ非自民・非共産8党派の枠組みで政権を継承したものの、社会党の連立離脱により少数与党となり、政権運営が難航。当時の野党・自民党が不信任決議案を提出し、戦後2番目に短い64日間で政権は幕を閉じた。
石破政権も与党が過半数を割ったままでは、野党の協力なしにいかなる法案、予算案も通過させることができない。政治改革が進まないうえ、政策遂行も思うに任せないまま来夏の参院選に至れば、惨憺たる選挙結果になることはまず間違いない。
立憲としては、多少の時間はかかっても、参院で多数の議席を得たうえで「政権交代」の勝負に挑むほうが理にかなっているともいえる。そしてなにより、国民民主も維新も現状では非自民連立政権を実現するため立憲と手を組むことに否定的なのだ。
戦略を練り好機をうかがう、高市・萩生田連合は雌伏の時
では、自民党内の情勢はどうか。総選挙後の党内の勢力図の変化により高市政権の実現をめざす勢力はかなり弱体化したように見える。
総裁選で高市氏の推薦人となった20人のうち衆院議員は11人いたが、うち杉田水脈氏が出馬を断念。鈴木淳司氏(安倍派)、高鳥修一氏(同) 谷川とむ氏(同)、三ツ林裕巳氏(同)、若林健太氏(同)、土井亨氏(無派閥)の6人が落選した。土井氏を除く5人はいわゆる“裏金議員”である。
それだけではない。総裁選で高市氏に票を投じたとされる“裏金議員”のうち、当選したのは萩生田光一氏、西村康稔氏ら18人だけ。丸川珠代氏、下村博文氏ら28人はあえなく落選した。
もともと逆風が吹き荒れていたところへ、投票日の間際になって、しんぶん赤旗のスクープで自民党が非公認候補の党支部に2000万円の活動費を支出していたことが発覚、大手メディアも後追いし、野党から“裏公認”と批判を浴びたことも影響した。
それでも高市氏は初の女性総理になる野心を捨ててはいない。当選した萩生田氏らとともに新たな戦略を練るだろう。政策通だが自説を押し通そうとし融通がきかないともいわれる高市氏の弱点を萩生田氏がカバーし、“高市陣営”の結束を強めることができるかどうかがカギになる。
石破政権の「奇妙なバランス」長くは続かず
少数与党であっても、石破政権はしばらくの間、奇妙なバランスで継続するだろう。しかしそれも、さほど長くは続かないのではないか。
来年夏の参院選が近づくにつれ、選挙に勝てる“顔”にすげ替えようと党内から「石破おろし」の動きが強まる可能性が高い。内閣不信任案が提出されれば、党内から造反票が出るかもしれない。
現政権のまま参院選にのぞむとしても、今回の衆院選と同じように惨敗するようなら、それこそ石破首相は責任をとって退陣せざるをえなくなるだろう。
いずれにせよ自公体制が弱体化する流れは押しとどめられそうにない。“自民分裂”のシナリオさえ囁かれる。おまけに野党の方向感も定まらず、混迷は深まるばかりだ。いずれダイナミックな政界再編が避けられないと思えるが、身を挺してその仕掛人となる大器量の政治家が今の時代に現れるのだろうか。
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