兵庫県知事選で再選された斎藤元彦氏。だが「選挙の結果」と「疑惑の真相」はそもそも別の問題だ。本記事では、メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』著者で京都大学大学院教授の藤井氏が重要な論点である斎藤氏の公益通報者保護法違反の疑いについて解説。さらに、かの告発がたとえ公益通報にあたらなかったとしても、依然として斎藤氏の振る舞いは「為政者」として許されるものではないと判断される理由を明らかにする。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです。また本文内では斎藤氏の本名である「齋藤」表記を使用しています/原題:【齋藤知事再選】「公益通報者保護法」の被疑者を選挙は「シロ」と認定.結果,民意を恐れる県議百条委員会は「クロ判決回避」の公算拡大…しかし「正義」は「事実」に基づくべし.
「選挙結果」と「疑惑の真相」は別問題
「パワハラ疑惑」で辞任に追い込まれた齋藤氏が、この度の兵庫県知事選挙で再選されました。
現下の民主主義制度を採用している我が国では、この結果は重く受け止めねばなりません。少なくとも、齋藤氏は「知事」の要職に就くことが決定されました。そしてその事実を受け止め、これからメディア上の論調や有識者達の発言内容が変わってくるものと予期されます。
(例えば、コチラ:https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202411170001830.html)
ただし、この結果は、あくまでも「知事を誰にするか」を決定するものであり、言うまでも無いことですが、「当選者に関わる真実」に関わる諸判断がこの決定によって影響を受けるものではなく、そして、受けるようなことがあってはなりません。
本稿では、その一点について検討をしてみたいと思います。
この度の選挙の構図は「既存マスメディアvsSNS」と言われていますが、その件の「事実的経緯」は以下の様なものです(以下の出典は、コチラの情報を基本にとりまとめています。こちらのサイトには、各情報の出典も明記されていますので、これに準拠して以下にその概要を、とりまとめます)。
(1)兵庫県の一職員から、齋藤知事のパワハラを告発する文書が、兵庫県警、報道機関4社、国会議員1名、県議4名、ならびに県庁内の通報窓口に提出された(3月12日付け)。
(2)齋藤知事サイドは、その告発には「事実無根の内容が多々含まれ」ており、かつ、「嘘八百」を含むものであり、その外部告発行為は公務員として不適切な行為だと断罪し、当該告発者を「告訴」する準備を進めている旨を記者会見で発表(3月27日)。その上で当該職員を特定するための徹底調査を庁内で行い、告発者を特定。それと同時に、当該告発者の処分を検討するために「弁護士を入れた内部調査」を開始した事を公表(4月2日)。
(3)その後、同職員から今度は、兵庫県内の公益通報制度を利用し、庁内の窓口に疑惑を通報(4月4日)。
(4)さらにその後、「弁護士を入れた内部調査」を通して、「告発は核心部分において虚偽であり、告発文書は知事や職員に対する誹謗中傷であり、不正行為」と判断し、告発した職員について「停職3カ月の懲戒処分」を決定(5月7日)。
(5)県が実施した調査で、「7人が知事や幹部のパワハラ、6人が知事や幹部への物品供与」を回答で指摘したという結果が公表される(5月9日)。
(6)齋藤氏は、当該告発内容について、「第三者委員会」の設置を表明(5月14日)。またその後、議会が告発内容の真偽を確認する「百条委員会」設置が決定(6月13日)。
(7)記者会見で初めて、齋藤氏は告発内容を「全て否定」(6月20日)。
(8)告発者が「一死をもって抗議する」「百条委員会は最後までやり通してほしい」という一文が入った陳述書を残し、自殺(7月7日)。
(9)齋藤知事は告発内容の一つであった「おねだり」に関連してワインを受け取っていたこと認める(7月19日)。ただしその後、それが「社交辞令の範囲」と釈明(7月24日)。
(10)兵庫県議会は、全会一致で、齋藤氏を不信任を決議し、齋藤氏辞職。その後実施された知事選挙で齋藤氏再選(今に至る)。
法的に重要なポイントは「公益通報に該当するか否か」
この一連の経緯で、法的に重要なポイントは、かの告発が「公益通報」に該当するか否か、という点です。もし公益通報であるなら、齋藤知事の「告発者捜し」や「告発者の処分」は公益通報者保護法違反となるからです。
齋藤知事は「告発された側」ですが、その「告発された側」である齋藤知事は、これを「公益通報」ではなく、「斎藤政権にダメージを与える、転覆させるような計画で、選挙で選ばれた知事を地方公務員が排除するのは不正な目的」の文書であると認識する、という立場を取っているようです。そしてその根拠として、片山元副知事は、内部調査の段階で、当該職員のメールに『クーデターを起こす、革命、逃げ切る』というくだりがあったことを挙げています。
しかも、齋藤批判を拡大させた「告発者の自殺」は、告発者の「不倫」の証拠が彼のパソコンに大量に残されており、それが原因なのであって、別に齋藤知事のパワハラが原因なんかじゃ無い、という言説も、選挙期間中、SNSで大いに共有されました。
しかも、そうした情報がSNSでは共有されているのに、既存メディアでは全く報道されていないという点が「炎上」的にネット上で共有され、齋藤知事は『告発者を自殺に追い込んだ悪い為政者だ』という認識から『既存メディアに不当に虐められる被害者だ』という認識へと、ネット世論は変わっていったのでした。
その結果、
「告発者の告発は公益通報の類いではなく、単なる、齋藤政権を潰すための不正なフェイクの告発だ!」
という認識を持つ有権者が多数派を占め、齋藤氏が勝利した、という結果になったのです。
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