言うまでもないが、金正恩とトランプは三度にわたる首脳会談を行った「旧知の仲」である。直接の会談のみならず何度も書簡を交わしており、それらは時に葛藤を伴いつつも、トランプを「卓越した政治感覚を生まれ持った閣下」と激賞するなど、「話せる相手」としてのある種の信頼感を抱く存在でもあった。本来、北朝鮮にとってコンサバティヴな政権は組しがたい相手のはずだが、金正恩に限らず北朝鮮の首脳部は対外交渉において、伝統的に「弱いリベラル」より「強いコンサバ」を好むのである。
北朝鮮の対日外交の歴史を顧みるとそれがわかりやすい。1990年のいわゆる金丸訪朝団の際、金日成は友党である社会党の田辺誠副委員長をほったらかして、当時の日本政界のドン・金丸信元副総理だけを妙高山に招いた。2002年と2004年の日朝首脳会談で金正日は小泉純一郎首相と相対したが、小泉はいわゆる「不審船」や朝銀の経営破綻等への対応など、北朝鮮の意に沿わない政策を重ねており、小泉は表向きには非難の対象であった。例え主義主張が異なっていても、相手が国内を束ねる実力者であれば、対等な交渉相手として遇する。そこにあるのは、水面下の緻密な交渉よりもトップ同士の交渉で決断を促す、つまりは正面突破を好む傾向である。但し、それは先方が交渉に応じてくれることが前提で、例え「強いコンサバ」でも、ジョージ・W・ブッシュ元大統領のように本気で戦争を仕掛けてくるような相手ではいけないし、安倍晋三元首相のように強硬姿勢を崩さず、交渉の余地を与えない相手でもいけない。
少なくともトランプ政権は北朝鮮にとって「話せる相手」になるはずである。表層では批判もすれば要求も突き付けるが、今後、様々な形で首脳会談実現を図る動きも活発化するに相違ない。月並みではあるが、現時点では「お手並み拝見」ということにしておきたい。(宮塚コリア研究所 専門研究員 新井田実志)
この記事の著者・宮塚利雄さんのメルマガ
image by: Hadrian / Shutterstock.com