「SNS選挙」が脚光を浴び、斎藤元彦氏が再選を果たした先の兵庫知事選について、人気漫画家の小林よしのり氏は、「オールドメディアも酷いが、だからといってニューメディアがいいというわけでは全くない。もっと酷いメディアが誕生してしまっただけ」と指摘。テレビが「一億総白痴化」を招いたのは事実だが、ネット・SNSによって招来されるのはそれをも上回る「一億総狂人化」の悪夢であると憂慮する。(メルマガ『小林よしのりライジング』より)
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ゴーマニズム宣言・第549回「〈一億総白痴化〉から〈一億総狂人化〉へ」
斎藤元彦を当選させた兵庫県の有権者は明らかな馬鹿
よりによって、斎藤元彦を再び知事に当選させてしまった兵庫県の有権者は、明らかな馬鹿である。どうしようもない馬鹿である。
今こんなことを言うと、たちまちSNSで大炎上となるらしいが、知ったこっちゃない。馬鹿には馬鹿と言わなきゃしょうがないのだ!
ネットには斎藤の再選を絶対的な正義のようにして、「有権者を侮辱するな」だの「民意の裁定が下ったんだぞ」だのと居丈高に唱える声が溢れているが、じゃあ有権者は神なのか? これは神の審判なのか?
そんなことはない。有権者が間違った判断を下すことなんか、いくらでもある。そんな前例は、ドイツの有権者がヒトラーを選んだ一件を挙げれば十分だ。もっとも今どきのネット民の若者は「ヒトラーの一件」といっても、何のことだかわからないほどのレベルだったりするから、話にならない。
熱狂の波が去ってみたら、なぜこんな選択をしてしまったんだろうとなるようなことは、今まで何度も繰り返されてきたはずだ。かといって、誰も総括も反省もしないのだが。
そんな有権者の審判が下ったといって、これを絶対化することなど決してしてはいけないのである。
選挙結果に萎縮するマスコミ。そんなことだからナメられる
新聞・テレビなどの既存マスコミは斎藤の「パワハラ疑惑」を連日報道し、出直し選挙でも斎藤の再選はどこも予想していなかった。
そんな中で、斎藤陣営はSNSやユーチューブなどのネットを駆使する選挙戦を行った。そのネット戦略を請け負ったコンサル会社の代表は、一部始終を自慢げにブログに掲載。その中に報酬を受け取って行ったとも取れる箇所があり、それが事実なら公職選挙法違反になるとして、新たな火種となっている。
SNSは既存マスコミを「オールドメディア」と称し、斎藤の疑惑はオールドメディアの「捏造」だ、斎藤は「既得権益者」に嵌められたのだ、これはイジメだ、陰謀だと騒ぎ立てた。そして、対立候補に対する膨大なデマや誹謗中傷が飛び交った。
選挙戦の争点は「斎藤は善玉か、悪玉か」の二者択一となり、政策論争は消え失せた。「斎藤善玉論」はネット内にしかなかったが、ネットには同じような「善玉論」ばかりがタイムラインや検索結果に出てくる。
そしてネットばかり見ている人は、やがて「なぜテレビはこの重大情報を取り上げない?」と不信感を持ち、マスコミに叩かれる斎藤こそが「真の被害者」だと思うようになっていった。
NHKの出口調査では、投票の参考にしたものでは「SNSや動画サイト」が30%でトップを占め、「新聞やテレビ」の24%を引き離した。そして、SNSや動画サイトを参考にした人のうち、7割が斎藤に投票していた。
ネットしか見ず、リテラシー能力もない兵庫県の有権者がまんまと乗せられて、斎藤を当選させてしまったのだ。
本当に既存マスコミが自らの報道に自信と誇りを持っていたら、選挙の結果なんか関係なく斎藤を追及する報道を続ければいいし、こんな選択をした兵庫県の有権者はおかしいと批判すればいい。それこそがマスコミの使命だと言ってもいい。
ところが、新聞もテレビも選挙結果ひとつで完全に萎縮してしまった。コメンテーターなども、批判的なことを言うとSNSで袋叩きにされると恐れているのか、発言を控えるようになり、中には以前の批判的発言について謝罪する者まで出てくる始末である。
そんなことだからナメられるんだということが、なぜわからないのだろうか?
許していいわけがない、立花孝志の非常識な行動
この選挙には「N党」の立花孝志が「当選を目的としない」と公言して立候補し、自身のポスター掲示枠には斎藤を支援する内容のポスターを貼り、斎藤の応援のため他の候補への妨害工作などを執拗に行った。
そもそもそんな立候補など常識的におかしく、許されるはずがない。
確かに公職選挙法には、どこを読んでも「当選を目的としない立候補は禁じる」といった条文はない。一定の票を獲得できなければ供託金を没収するということが定められている程度で、だからこそ今までも、注目される選挙にはどう見ても当選するはずのない「泡沫候補」が多数出馬し、選挙を自己PRの場に使ったりしてきた。
だが立花はその法律の不備をさらに悪用し、先の都知事選では一人しか当選しないところに24人も立候補させて、ポスター掲示板をジャックして選挙とは関係のない同じポスターをずらっと並べて貼り、そのポスター掲示枠を事実上「販売」して利益を得ようとまでしたし、今回は斎藤を応援し、対立候補を妨害するために立候補したのである。
法律には「ポスター枠販売のための立候補」や「他の候補を応援するための立候補」を禁じる条文はない。そんなことをやる非常識な人間が出てくるとは、誰も想定していなかったからだ。
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こんな人間が出た以上は、ただちに法改正をしなければならないのは仕方がないことだが、世の中には「不文の法」というものがある。条文で禁止されていなければ何をやってもいいとする立花のような人間が当たり前になったら、「不文の法」は崩壊し、どんな些細なことでも明文化して縛りをかけないと秩序が破壊されてしまうということになり、とんでもなく窮屈な社会になってしまう。
このような無法者は、もっと強く批判しなければいけない。しかも選挙には税金が使われているのだから、これを悪用するような行為を許しておいていいわけがない。新聞・テレビ等はもっと大問題として取り上げなければならないし、それこそが使命のはずなのに、何を恐れているのか、これに対しても妙に及び腰なのだ。
斎藤と立花は同類の人間、暗黙の連携関係にあったというべき
立花は斎藤の疑惑を調査する県議会の百条委員会の委員の自宅前まで行って「街頭演説」と称して「引きこもってないで出てこい」などと脅しをかけた。
委員長の母親は避難せざるを得なくなり、別の県議は議員を辞職してしまった。
辞職した県議は、「言葉の暴力が拡散して、家族が狂乱状態までになった。昨晩も話をしっかりしたが、家族から『政治の道から退いてほしい』と話があった」と語ったという。
あまりにも常軌を逸した暴力的行為であり、こんなのはさっさと逮捕して刑務所にぶち込むべきだ。
そもそも立花は、NHK受信契約者の個人情報を不正取得したなどの罪で懲役2年6か月・執行猶予4年の有罪判決が確定して、現在は執行猶予中の身だ。公職選挙法違反以外の罪なら執行猶予中でも選挙に出られるらしいが、この制度もおかしいのではないか。
仮にも選挙権・被選挙権というものを行使して政治に参加する資格を与えられている者は、民主主義を守らなければならない。
立花孝志がやっていることは、4年前に選挙の結果が不服だからと議会の襲撃を煽動したトランプと変わらない。法の支配というものがあるはずなのに、その抜け穴を姑息にくぐり抜けながら、民主主義の原則を破壊していっているのであり、そんな暴挙が許されていいわけがない。
大統領に返り咲いたトランプに比べれば、立花の存在はまだ微々たるものだが、兵庫県知事選の結果を狂わせるくらいの影響力は持ち始めているのだから、警戒しておかなければならない。
立花はあくまでも勝手に斎藤を応援したと言っているが、少なくとも斎藤は立花が自分を応援するためとして、こんな暴力的行為に及んでいることを黙認していたのは間違いない。
斎藤と立花は全く同類の人間であり、少なくとも暗黙の連携関係にあったというべきである――(メルマガ『小林よしのりライジング』2024年11月26日号より一部抜粋・敬称略。小林氏が「オールドメディアも酷いが、だからといってニューメディアがいいというわけでは全くない。もっと酷いメディアが誕生してしまっただけ」と喝破するこの続きは、メルマガ登録の上お楽しみください)
同号ではこのほかにも、【特別寄稿・茅根豪「不同意性交罪の『不同意』って?」】【泉美木蘭のトンデモ見聞録・第344回「女帝・持統天皇列伝〈1〉~もう“中継ぎ”なんて言わせない」】【読者Q&Aコーナー】を掲載。ご興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。
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