「NATOの決断」でウクライナの戦力はアップしたのか
NATO各国がウクライナにロシア領内への攻撃を容認したことで一気にウクライナが戦力アップしたようなイメージを持ちがちですし、そう報じられがちですが、実際にはどうなのでしょうか?
NATOから供与された長射程の兵器については、ATACMSはストックが底をつきつつあり、供与元の米陸軍も、次世代兵器が完成し配備されるまでは、国家安全保障上、ATACMSをこれ以上シェアできないという事情がありますし、英国のストームシャドーやフランスのスカルプも、追加供与が発表されていますが、そのタイミングが即時なのか、それともしばらくたってからなのかは明らかにされておらず、トランプ新政権ができるまでの2か月弱の間にウクライナの戦況を改善できるかどうかは不透明です。
現在、8月6日のクルスク州への越境攻撃後、ウクライナの劣勢は鮮明になってきており、肝心のクルスク州も4割から5割がすでにロシア軍に奪還され、それと並行して、ロシア軍の別働部隊によってウクライナ東部の領土を奪われているという事態です。そこに北朝鮮軍1万1,000人が投入され、またイエメンのフーシー派の戦闘員も参加しているという情報もあり、まさに親ロシア勢力を結集して、少しでも戦況をロシアにとって優位にしようと躍起になっているようです。
ここまで見て分かるように、トランプ次期大統領の“24時間宣言”を受け、両陣営ともに「トランプ氏が主導するだろう停戦交渉を少しでも優位に進めるために、今こそ力を注ぎ込むべき」というメンタリティーになっているようで、すでに就任前から紛争調停のプロセスに多大な影響を与えています(まさに1のコーナーで話題にしているHard-Bargaining作戦を見ることが出来ます)。
ただ正直その両陣営の“焦り”(トランプ氏は何をするのか予想がつかないという認識)が戦争を激化させていることも事実で、何かしらの偶発的な衝突や事件がどこかで起こった場合には、トランプ氏の再登場を待つことなく、戦争のエスカレーションが起きる懸念も高まります。
バイデン大統領を含め、皆が「トランプ氏が再登場するまでに…」と焦って思い切った行動を取りだすと、不用意に戦争がエスカレートし、ロシアの一部ともいえるベラルーシが軍事的に介入し、ロシア以上に核兵器の使用をちらつかせ、ロシア国内では強硬派たちが「ウクライナとその仲間たちを止め、ロシアの国家安全保障を保証するためには核兵器の使用もやむを得ない」とプーチン大統領に迫り、NATO側ではウクライナの戦後復興において主導権を握りたいと画策する英仏と、ロシアに対する過剰な刺激は自国の直接的な脅威に発展すると西欧諸国に自制を促しつつ、自衛策を実行に移し始める中東欧諸国とバルト三国、そしてフィンランドとスウェーデン、ウクライナへの支援は義務と感じつつも、国内の不満の高まりに直面して影響力を失ったショルツ首相(ドイツ)、西欧諸国で広がる極右(自国ファースト)の影響力の高まり…。
どう見ても自らのレガシーづくりとしか思えないバイデン大統領の方針転換は、すでにさまざまなところでハレーションを起こし、デリケートな安定を崩し始めているように思えます。
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