経済政策だけにとどまらず、外交についても岸田政権の路線を継承する考えを示す石破首相。しかしこと「対トランプ」においては、その姿勢は国益の毀損に繋がる可能性が大きいようです。今回のメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』では京都大学大学院教授の藤井さんが、そのように判断せざるを得ない理由を詳説。依存一辺倒の「媚米外交」は我が国を地獄に導くものでしかないと警鐘を鳴らしています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:アメリカファーストのトランプに石破がどれだけすり寄っても搾取が拡大するだけ。今こそ日本は自立しなければ未来は確実に地獄行きとなる
自立なければ地獄行き確実。石破がトランプにすり寄るほど拡大する搾取
本年11月の米国大統領選挙で、共和党のトランプ氏が民主党のハリス氏を下し、勝利した。結果、来年1月に、現バイデン政権に代わりトランプ政権が樹立されることとなった。トランプ氏は二期目の大統領ということで再任はないが、2025年から2029年にかけてトランプ氏が米大統領を務める見通しとなった。
今日の米国においては共和党を支持する人々と民主党を支持する人々との間には「Civil War」(内戦)と表現される程の対立があり、国民の分断は極めて深刻なものとなっている。そもそも民主党のバイデン政権の政策方針は基本的に所謂「理想主義」を基調としており、「自由と民主主義」(リベラルデモクラシー)が正義であり、この正義の価値は崇高なものであるため、その正義の実現のために相当なコストを支払うことも厭わないという傾きを持つ。
権威主義を排除し民主主義を敷衍するという「理想」、地球温暖化の阻止という「理想」、あらゆる人々の基本的人権は大切であるという「理想」、力による国境の改変は許されないという「理想」を掲げ、そのために、多少の反発や紛争の激化も厭わない。その結果、LGBT運動は加速し、移民受け入れを加速し、NATOはロシア領土にアプローチする形で含めて拡大し、ロシアと闘うウクライナへの徹底支援を拡大してきた。
一方でトランプはそうした「理想」よりも、「現実」を重視した政策運営を行う傾きが相対的に強い。ロシアと闘うウクライナの支援方針の大幅な見直しも打ち出すと共に、ロシアや北朝鮮とも対話の準備を進めつつある。移民政策についても引き締めの姿勢を鮮明に打ち出している。
もちろんバイデン民主党といえど現実を完全に無視するわけでもなく、トランプ共和党といえど理想を完全に無視するわけでもない。
しかし両者の間には埋めがたい差違が存在するのは事実なのだ。それにも関わらず、現石破政権がその基本方針を引き継いだ前岸田政権は、彼が総理大臣の席についた時の大統領が「たまたま」民主党のバイデン大統領であったというだけの理由から──筆者にはそうとしか思えない──バイデン大統領の政策方針に完全に迎合する政治を内政外交ともに展開してしまった。
例えば、これまで積み重ねてきた日ロ独自外交の歴史を完全に無視してバイデン氏が望むロシア批判を加速し、バイデン氏が望むLGBT法案を国内の反発を無視する格好で成立させた等はその典型例だ。
さらには、自身の後継総理を決める総裁選挙においても、わざわざその投開票直前にホワイトハウスまで出向き、バイデン大統領の意向を確認し、その意向に忠実に従うべく、高市早苗氏「以外」の人物を日本の総理に仕立て上げるために、彼自身の「キングメーカーとしての政治的パワー」を全力で投入したとすらしばしば囁かれている。
そうして岸田氏はバイデン氏の意向をくむ形で石破政権を樹立させ、自らの方針の全てを引き継ぐように仕向けたわけだが、そんな石破氏の「はしご」を外すかのような格好でバイデン氏がホワイトハウスから退出しトランプ氏が米国大統領となることとなったのが今回の米大統領選挙であった。
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トランプには全く通用しない依存一辺倒の岸田流媚米外交
繰り返すがトランプ氏は、Civil War(内戦)と言われる程に対立してきたバイデン・ハリス氏の方針を180度転換させることは必至だ。すなわち、バイデン氏が加速させてきたウクライナ戦争の終結を目指し、同じくバイデン氏が加速した地球温暖化対策や移民受け入れ政策を抑制し、自由貿易主義よりもむしろ関税を引き上げる保護主義の方針を拡大していくことが見通されている。
そんな状況下で、日本の総理は如何なる方針でトランプ大統領率いる米国と対峙していくべきなのか。言うまでも無く、これまで岸田氏が繰り返してきたように、とにかく米大統領のご機嫌を取り、忖度し、米大統領が喜ぶ内政外交を展開し続けていて良い筈がない。そんな媚米の態度を継続しているだけでは、日本は搾取されるだけ搾取され、国益は激しく毀損する他ない。
例えば岸田文雄氏によるバイデンに対する「媚びへつらい」外交によって、バイデン政権内での岸田氏の評価は大変に高いとしばしば言われているようだが、その帰結として、日本の対露外交は激しく傷ついてしまった。北方領土返還交渉が絶望的状況に至り、極東における安全保障環境がさらに悪化した。今後、日中、日朝の軍事的安全保障的対立が深刻化した場合、ロシアが「中立」的な立場を取る可能性が岸田外交によって大幅に下落すると共に、中国や北朝鮮に与する形で日本に対して「敵対」的な立場を取るリスクが飛躍的に拡大してしまったのである。
つまり、岸田外交のように、日本の国益を考えずただただ大国にすり寄るだけの外交を展開すれば、日本の国益の巨大な毀損は確実なものとなるのだ。ましてやバイデンからトランプへと米国の各種政策方針が反転する状況下では、対米追従による国益毀損はさらに肥大化することとなる。
おおよそトランプは「アメリカファースト」を主張し、同盟各国に、防衛力や消費(あるいは需要)についてのアメリカ依存を辞めるように仕向け、同盟各国が自発的に防衛力や消費(需要)を高めるように主張している。
そんなトランプに対して、防衛や経済についての「自立」を何も考えずに、ひたすらアメリカにすり寄り依存し続けるような外交が続けば、日本はアメリカが提供する防衛力や消費(需要)を、これまで以上の「高値」で購入しつづけざるを得なくなるのだ。
つまり、岸田流の依存一辺倒の媚米外交は、バイデンには一定通用してもトランプには全く通用しないのであり、それにも関わらず、自国の自立性と高めず、ただただ依存し続ける姿勢を継続されれば、日本はより激しく搾取される他なくなるのだ。
だからこそ、日本は“アメリカファースト”を掲げるトランプ大統領、ならびにバンス副大統領が率いる米国(以下、「米トランプ/バンス体制」と呼称する)に対して「自主独立」の姿勢を打ち出しながら対峙していかねばならないのである。
(メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論』2024年11月28日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、11月分のバックナンバーをお求め下さい)
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