保険会社CEO射殺に「全米が共感」の怪。なぜアメリカ医療保険大手は“復讐されても同情できない”あこぎな商売に手を染めたのか

 

米医療保険会社は加入者にどんな“仕打ち”をしているか

現在のアメリカの医療保険は大きく4種類に分けられます。1つは65歳以上の高齢者向けの医療保険の「メディケア」で、その大部分は公営です。2番目は同じく貧困層向けの医療保険の「メディケイド」で、これも公営です。3番目は、自営業や個人向けのいわゆるオバマケアで、民間の保険ですが半額近くを公費が補助する仕組みです。4番目が企業など雇用先を通じて集団加入する民営保険です。

ユナイテッドをはじめとした民間の医療保険会社は、4を主体に3と1の一部を請け負っています。殺されたトンプソン氏が率いていたユナイテッド・ヘルスにとっては、その中で最も多いのは4だと思います。

つまり、従業員と保険料は折半するという格好で、一般の企業が医療保険に集団として加入するものです。こうした保険加入は法律で義務付けられています。ちなみに、1月から政権を奪還することになる共和党は、2や3については批判的ですが、この4の民間企業における医療保険集団加盟については反対していません。

いずれにせよ、アメリカでフルタイムで雇用されれば、余程のことがない限りこの民間の保険に入ることになります。大雑把に言えば、半額を会社が出してくれるわけで、その保険料は月額で数百ドルというところです。ちなみに、この保険料は所得によっては累進しません。その代わり、集団で加入する際にその保険料は企業の平均年齢や疾病率などから算出されることで、千差万別となっています。

問題は、自動車保険や火災保険に比べて、この民間の医療保険というのがビジネススキームとして難しいということです。医療は日進月歩であり、生命を救うためにどんどん新しい治療法が生み出されていきます。その全てを保険会社が払っていては、あっという間に潰れてしまうわけですが、それでも時代が進むにつれて高度医療への保険適用は拒めなくなります。

1年間の保険料は決まっているので、では、どのような診療は認めるのかという点については法令で決められている部分もありますが、保険会社の裁量となる部分もあります。例えば、明らかに悪質な過剰請求やカラ請求については、民間企業の利害という立場から保険会社は厳しく拒否します。一方で、1年毎の定期検診や、がん検診など「予防診療」については、どんどん奨励する立場を取ります。放置して疾病が深刻化し、巨額の診療費請求が来るよりも早期に発見することは、診療費を抑制するからです。

医療費抑制という観点からはこうした民営保険の良さが出ているという見方も可能です。ですが、とにかく医療保険の業界の経営環境は非常に厳しいのが現実です。ですから、個人の加入者に対しては、基本的な姿勢は非常に「攻撃的」です。日本のように、民間企業の利用者は顧客であって立場が上というのとは、真逆な世界があるとも言えます。

print
いま読まれてます

  • 保険会社CEO射殺に「全米が共感」の怪。なぜアメリカ医療保険大手は“復讐されても同情できない”あこぎな商売に手を染めたのか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け