加入者からの初回問い合わせは「遅延せよ」の方針で無視する
例えば、インフルエンザか何かの疾病で医者の診療を受けたとします。そうすると、医療機関は診療報酬の請求を保険会社に出します。多くの場合に、保険会社はまず「否認」してきます。理由としては、主治医の紹介状がないとか、その医者の住所が保険屋のデータと一部違うからダメだとか、適当なことを言って否認するのです。
その場合に、物凄く良心的かもしくは仕事のできる医療事務であれば、医療機関の側でネゴして問題を解決してくれますが、人手不足の昨今、そんなことは稀です。そうすると、本当は自己負担額30ドル(4500円相当)のはずが、診療報酬の全額を否認されると、その全額となる700ドル(10万5千円相当)の請求が患者のところへ来ます。
患者の方が腹を立てつつボンヤリして数カ月その請求書を放置すると、この700ドルの債権は債権取立業者に売り払われて、患者としては更に面倒なことになります。例えば信用履歴に傷がついてスコアが下がるなどです。とにかく理由があって、正当な診療を受けたのですから、患者としては30ドル払えばいいはずなのですが、保険会社が「否認」したのを放置してボンヤリしていると、どんどん窮地に追い込まれるわけです。
こうした経験は、アメリカに住んでいれば誰でも経験している問題です。やがて、ゲームのルールに気づく瞬間が来ます。つまり「保険屋は正しい規約どおりの処理をするように仕事はしていない」のであって、700ドルではなく自己負担額は25ドルに持っていくのには「患者のほうが頑張らないといけない」という理解をするようになります。
ですから、かなり早い時期からネット上の自分の保険のアカウントを確認し、同時に医療機関の側のアカウントも確認して「700ドルの診療報酬を保険屋は蹴る構えだな」と思ったらアクションを起こすことになります。保険屋のネットには一応チャット機能やメッセージ機能があり、多くの場合は、最初の問い合わせは「遅延せよ」という内部方針に従ったためか、無視されます。
ですが、粘り強く進めると最後には「700ドルの診療報酬請求がありましたが、精査の結果として320ドルに減額査定されて医療機関と合意し、290ドルの保険金支払いがされました」という結果にたどり着きます。つまり、患者の自己負担は差し引き30ドルに着地するというわけです。
よく日本人の方がハワイで急病になって診療を受けたら何万ドル(数百万円)の請求が来て驚いたという話がありますが、あれは病院が保険屋との交渉に進む前に「試しに吹っかけた金額」であって、そのまま最後まで行く数字ではありません。いずれにしても、患者の側も相当に「気を張って」戦闘モードになり、自分の権利は自分で守るというスタンスでいかなければならないのです。
そうした経験をしている人、といいますかアメリカ人なら配偶者に任せっきりにしている人などを除けば誰もが、この種の経験をしています。