イスラエルと共にイランを攻撃したアメリカへの信頼が、いま大きく揺らいでいます。国際法を顧みないトランプ政権の姿勢に同盟国からも警戒の声が上がる一方、相対的に存在感を高めているのが中国です。「パクスアメリカーナ」に代わり「パクスチャイナ」の時代が到来するのか―。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、ジャーナリストの富坂聰さんが、米中覇権争いという単純な構図では語れない国際情勢の深層を読み解きます。中国はなぜ覇権の椅子に座らないのか。その意外な答えに迫る上下2回の前編をお届けします。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
イラン戦争で揺らぐアメリカへの信頼
イスラエルと組んでイランを攻撃したアメリカの信頼が揺らいでいる。
国際法など眼中にないかのように振る舞うドナルド・トランプ大統領には、西側同盟国の間からも警戒の声が上がっている。さらにこの攻撃がホルムズ海峡の実質的な閉鎖につながったことで、世界は原油高に由来する深刻なインフレに見舞われた。
道義的な問題に加えて実害が重なったことで、トランプ政権へ向けられる世界の目は日々厳しさを増している。
こうした世界情勢の中、相対的にイメージを高めていったのが中国である。
イランへの攻撃が始まって以降、イスラエルのレバノン攻撃を含めて中国は、一貫して「(攻撃は)国際法違反」であり、「即時停戦と関係国が話し合いのテーブルに戻ること」を呼びかけてきた。
一方で中東を走り回り、アメリカとイランの停戦合意のために尽力した。
こうした中国の言動が、少しずつ国際社会で認められ始めたということだろう。
西側先進国による中国の見直しは、実はトランプ政権が相互関税を発動するころから始まっていたのだが、その流れがイラン戦争で決定的になったということだ。
中国を長くウォッチしてきた私からすれば、中国は昔から何も変わっていないのだが、コロナ禍と第一次トランプ政権(1・0)の下で定着した「中国=独裁国家=ロシアのプーチン大統領と同じ=侵略国」という、アメリカが発したイメージが独り歩きしていた。今、それがやっと修正され始めたということだろう。
「パクスチャイナ」の時代は来るのか
そうした流れの中で、頻繁に話題に上るようになったのが「パクスアメリカーナに変わるパクスチャイナの時代がやってくるのか」という問いである。
中でもシノフォビア(中国恐怖症)を患う日本では、「そんなことになったら大変だ」とばかりに大きな反応が起きている。
今回のメルマガでは、そうした問いに答え、上下2回にわたり、パクスチャイナの可能性を論じてみたいと思う。
早速、本題に入りたいところだが、その前に少し整理しておかなければならないことが二つある。一つはパクスアメリカーナの終焉は国際秩序の崩壊ではないということだ。
国際連合(国連)を中心とした戦後の国際秩序は、いま確かに崩壊の危機に瀕している。しかしそれはパクスアメリカーナの終焉とは同じではないということだ。
もう一つは現在のトランプ政権はパクスアメリカーナを何としても維持しようとは考えていないということ。
アメリカは今、世界の問題に自国の資源をつぎ込むことに強い疑問を持つようになっている。そしてそれはトランプ政権だけが持つ特徴ではないということだ。
オーストラリアのメディア『ザ・カンバセーション』は、アメリカ自身が「世界的なリーダーシップへの熱意(そして能力)を失いつつある」ことは明らかで、しかもそれがトランプ大統領の個性だけに由来するものではないと指摘して話題となった。
つまり日本で話題になる米中の覇権争いというのは、そもそもそんな分かりやすい対立の構造の中で語ることはできないということだ。
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