保険会社CEO射殺に「全米が共感」の怪。なぜアメリカ医療保険大手は“復讐されても同情できない”あこぎな商売に手を染めたのか

 

同業他社の経営層は逃げ支度、Webサイトから自身の情報を削除

最悪なのは、手術や入院などの大規模な診療の場合です。多くの場合は、トラブルを回避するために医療機関の側が先に見積もりを出して、保険屋がゴーを出さないと診療に進まないようになっています。

一番の問題はそこで保険屋がゴーを出さないという場合です。恐らくこれが一番深刻なケースと思いますが、安い保険に入っていて「年間の支払上限がある」等の場合には、高額の診療費の支払いを拒否される可能性があります。そうすると、極端な場合に保険屋がアコギなので手術が受けられず、家族が亡くなったというような場合も出てきます。

そんなわけで、今回のトンプソンCEO暗殺に使われた銃弾の薬莢に書かれていたメッセージを見て、アメリカ社会全体が震撼させられたのでした。特に深刻なのが同業者です。

医療保険大手の多くは上場しており、経営の透明性をアピールするために企業のウェブサイトに経営陣の名前と写真、経歴を載せています。ですが、今回の一件を契機に同業各社は一斉に経営陣の紹介を削除してしまいました。自分たちは「やましい」ことをしているわけではないが、模倣犯のターゲットになるのは防ごうというわけです。

では、実際のところはどうなのでしょう?

本稿の時点でも続々と新しい報道がされています。警察は防犯カメラの映像を少しずつ出すことで、事件の風化を防止して何としても実行犯を押さえ、背後関係と真の動機を解明したいようだからです。ですが、現時点では決定的な捜査の進展ということは見えてきていません。

いずれにしても、薬莢に書かれたメッセージからは「医療保険会社に恨みを持つ人間の犯行」という理解がされています。「否認、遅延」に対して患者サイドが必死に主張して初めて「所定の自己負担額」に落ち着くという現状は、確かにストレス満点ですが、それで経営トップへの殺意というのは飛躍に過ぎています。

また、保険会社が否認したので救命できなかった遺族の怨恨という線はあるかもしれませんが、基本的には法廷闘争や社会運動に行くのが通常であり、プロのヒットマンを雇って経営者を殺害して溜飲が下がるわけでもないと思います。

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