狙うは「トランプ退任後」か。停戦“受け入れ”のプーチンが着々と進めるウクライナと周辺国へ「大規模本格攻撃」の準備

 

国家安全保障上のリスクヘッジを怠ることのない中国

ちょっと脱線しますが、今回の“大国が決める国際秩序”という観点から無視できないのが中国の動向です。

中国の経済はスランプに陥り、一部の専門家からは“中国の体制は持続可能ではなく、そう遠くないうちに崩壊するだろう”という過激な予想も存在しますが、そのカギを握るのは「中国のサプライチェーンを維持できるかどうか」という点で、それを左右しうるのが、アメリカの力だと言われています。

トランプ氏の対中関心は、関税措置というカードを用いたディール・メイキングで、経済的なものに限られると読んでいますが、もし関税のみならず、アメリカが軍事力を駆使して、中国の国際的な物流網を断つような行動に出るようなことになれば、自国でなんでもまかなえてしまうアメリカとは違い、中国の力の根源は著しく断たれることに繋がります。

中国共産党の上層部が恐れ、軍部が宥めているのが、もし中国人民解放軍が台湾に対して軍事侵攻を行って、力による統一を図る場合に予想される国際的な制裁網です。

ロシアがウクライナに侵攻し、欧米諸国とその仲間たちが対ロ制裁網を敷いてから、中国政府では「台湾侵攻の場合に課される経済制裁の影響とシナリオ」についての研究・分析が進められ、様々なシナリオに備えた策が練られていると聞きます。

その中でも多くのシナリオでは「欧州各国およびアジア太平洋地域の対中依存度の高さに鑑みると、自らの犠牲を回避して、中国への制裁に加わる能力はないので、さほど心配がない」という分析がなされていますが、その際の大きな条件が“日本が対中制裁網に加わっていないこと”と“日本が中国に対して何らかの軍事的な対応をしないこと”というものだそうです。

トランプ政権誕生前夜ともいえるこの時期に、中国政府はアメリカにケンカを売るわけでもないですが、秋波をおくるわけでもない、どっちつかずで曖昧な態度を取り続けています。

China Firstと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、内憂は増加しているものの、対外的な影響力の拡大には相変わらず勤しんでおり、アフリカ大陸や中東地域において、ロシアが喪失した権益と拠点を、迅速に中国がカバーし、吸収して、着実に勢力拡大しています。これは自国の影響力と市場拡大にもつながりますが、同時にロシアに恩を売っておく、ロシアに対する交渉カードを増やしておくという戦略にも映ります。

どちらにせよ、中国にとっては自国の影響力と各国・他大陸による中国に対する依存度を高め続けることで、自国の国家安全保障上の(そして中国の存続上の)リスクヘッジをしているものと考えます。

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