従業員の忠誠心や倫理観の低さが招いた犯罪。三菱UFJ銀行「貸金庫窃盗」が起きた当然の背景

 

連帯保証人制度があるのは日本だけ。我が国の金融機関の問題点

日本の金融機関が抱える課題は、今回の問題に限らず、営業至上主義や連帯保証人制度といった長年の慣行に起因するものが多い。

明治時代以降、日本の銀行業界では分業主義に基づく金融制度が構築され、金融機関が特定の業務に特化することで効率的なサービス提供を実現してきた(*4)。しかし、この分業体制は一方で、金融機関間の過度な競争を招き、営業至上主義を助長する結果となった。

特に、高度経済成長期以降、銀行は預金獲得競争に注力し、リスク管理よりも営業拡大を優先する傾向が顕著となった(*5)。このような状況が1990年代のバブル崩壊後に多くの金融機関を不良債権問題へと追い込み、日本の金融システム全体を危機に陥らせた要因の一つとなった。

また、日本独自の制度である連帯保証人制度も、金融システムの課題として挙げられる。この制度は、日本の金融機関や法制度の特徴を反映しているが、同時に多くの問題点を抱えている。

一方で、アメリカでは日本のような連帯保証人制度は一般的ではない(*6)。金融機関が融資を行う際、主に担保や個人の信用スコアを基にリスクを評価し、連帯保証人を必要としない。信用スコア制度は、個人の信用履歴を数値化して金融取引の透明性や公正性を高める役割を果たしており、日本とは対照的な仕組みといえる。

結果的に日本の連帯保証人制度は、連帯保証人に依存することで、金融機関の与信審査能力が不十分にし(*7)し、借り手のリスクを保証人に転嫁することで、金融機関の自己責任意識が希薄化する恐れがある(*8)。

「会社への忠誠心」のなさが生み出す不祥事

この事件に限らず、日本の従業員の会社への忠誠心の低さが、結果として遵法意識の欠如を招いている可能性が。

ギャラップ社の調査では「会社が好き」と答えた日本の従業員はわずか7%に過ぎず、「好きでも嫌いでもない」が69%、「会社が嫌い」が24%を占めている。このデータは、日本の従業員の会社への愛着が低い現状を示している。そして企業への愛着の薄さが、倫理観の欠如を招く。

日本の転職市場の流動性の低さも問題の一因とされる。流動性が低いために問題のある社風が固定化され、改善意識が乏しいままとなるケースが多い。これにより、従業員のモチベーションや倫理観が低下しやすい環境が作られる。

日本独自の組織文化も遵法精神の欠如に影響を与えている。日本の企業では、法や規則よりも「周囲との調和」が重視される傾向があり、「ルールに従う」よりも「場の空気に合わせる」ことが優先される場面が多い。さらに、法律や規則を厳密に解釈するよりも慣習に従うことが一般化しており、結果的に規範意識が曖昧になる場合がある。

加えて、日本では規則や手続きが複雑で細かいため、全てを正確に守ることが現実的でない場面が多い。このような状況下では、規則を無視したり、独自解釈で運用することが常態化し、結果的に遵法精神が弱まる要因となっている。

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