■生じてくるアイデア管理上の機能不全
その力を活かせないか
しかし、一体その何がいけないのでしょうか。廃虚の茂りに、自然の生命力を観ることだってできるはずです。
そもそもとして、期間制限や個数制限をしていたのは、インボックスという場所は本来的にゼロになるべきだという価値観があったからです。本来それはゼロになるべきだが、特例的にいくつか置いておいても構わない、という考えで処理されていました。
だから数が増えてくると無理にでも処理しなければならなくなるのです。そして、無理に処理する数が増えれば増えるほど、アイデア管理としては機能不全が生じてきます。
しかも、あらかじめ決めておいた数を超えてアイデアが並びはじめると、「失敗」したような感じがするのです。なにせインボックスはゼロになるべきなのに、それができていないのですから。
■そもそも異なる「メーラー」と「アウトライナー」
そろそろこの呪縛を解くべきタイミングでしょう。
もちろん、Merlin Mannの考えは今でも有効です。少なくとも「メーラーの受信箱」に限って言えばそうですし、もともとそれが対象のコンセプトだったのです。
私たちが(少なくとも私が)犯した過ちは、メーラーの受信箱以外のものも「インボックス」と呼んでしまったことです。その呼称が「インボックス・ゼロ」というコンセプトを──意識していなくても──引きずっていました。
もちろん、Evernoteはメール経由でインボックスにノートを作れる、とか、外部ツールから送信されたデータが最初に保存される場所がある、といった感じでメーラーの受信箱に似た要素がないわけではありません。
実際私は、Workflowyに「ideas」という項目を作っていて、APIを経由することでWorkflowyのアプリを立ち上げることなくメモをこの項目に送れるようにしています。情報のやり取りの方式だけみれば、この場所は「インボックス」と呼んで差し支えないでしょう。
しかし、メーラーとアウトライナーは違います。メーラーはリストではありませんが、アウトライナーはリスト操作ができます。その中で順番を操作したり、構造化できるのです。
インボックス・ゼロのコンセプトを標語風に言えば「受信箱のなかで仕事をしない」であり、それはインボックスをタスクリストのようには扱わないことを意味するのですが、なぜそれが必要なのかと言えば、インボックスが「リスト」の機能を持っていないからです。
一方で、Workflowyの「インボックス」はそのままリストです。言い換えれば、「タスクリスト」の中にメモを送ることができるのです。だとしたら、その中で仕事をしたってぜんぜん構わないでしょう。
あくまでさまざまな情報が他人から流れ込んでくるメーラーだからこそ、その運用に気をつけよう、という提案をインボックス・ゼロが行っているのだとするならば、ノートやリストに外部から情報(特に思いつき)を送れる場所には違った運用のスタイルがあっていいはずだ、と考えられます。
じゃあそれはどんな運用になるのかについては、次回検討してみましょう。
(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2024年9月23日号の一部抜粋です。本記事のつづき(9月30日号)をお読みになりたい方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、2024年9月分のバックナンバーをお求め下さい)
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